アメリアの恋心    第18話





「りーなーさーん!!」
ドレスのまま突っ込んでくるアメリアを、背後から抱える男性がいたおかげで、
あたしはアメリアの頭突きを食らわずにすんだ。
セイルーンの王宮。
ルーク=シャブラニグドゥとの戦いの後、あたし達はあたしの故郷のゼフィーリアへ向かった。
そんでもって、そこでアメリアが結婚したという話を聞いて、慌ててセイルーンにやって来たのだ。
こいつら・・・いつのまにそんな関係になってたんだ?

「久しぶりだな。」
この声・・・。
銀色の髪に、青い瞳。白皙のかなりの美青年。
セイルーンの正装を隙なく着こなし、華美ではないが精巧な装飾の施された鞘で帯剣しているこの男性。
年の頃なら、二十歳くらいだろうか。
彼は・・・。
「ゼル!?」
そっか。
結婚したって事は、ゼル人間に戻ってたのか。
いや・・・こういう言い方をすると、まるで今までが人間じゃなかったみたいだが。
「ああ。」
こんな、いい男だったんかい!?
そりゃ、整った顔立ちしてるとは思ってたけどさ。
ガウリイも超絶美形だが、ゼルもたいしたもんだ。
およそ、世間の基準の遥か彼方。
ガウリイと違ってまともな脳みそがあるってことは、もう無敵。
まあ、性格に難があるにしても。
以前滞在してた時と同じ客室に案内され、
わらわらとやって来たメイドがお茶やお菓子を用意して、ようやくあたし達は一息つく。
「本当に、お久しぶりです!リナさんもガウリイさんも元気でしたか?」
「まあね。」
「そうですよね!!」
「・・・どういう意味かしら、アメリア?」
「い、いえ(汗)」
会った早々、失礼なヤツである。
アメリアのヤツ、会うたびにゼルに似てくる気がするのは気のせいか?
「まあ、あんた達も元気そうでよかったわ。」
「そうだなぁ。ゼルもよかったなぁ、人間に戻れて。」
「ああ。おかげさまでな。」
ダークスターとの戦いが終わってから別れて、かれこれ一年近く。
あたし達も何にもなかったわけじゃないけど、いい事があったわけじゃない。
仲間のオメデタイ話は、素直に嬉しいもんだ。
「んま、何をさておいて・・・オメデト!いつの間に結婚なんてしてたのよ?」
「ありがとうございます!えっとですね、あれからすぐですよ。」
「何だよ。知らせてくれればよかったのに。」
「一応お手紙は出したんですよ。」
「俺の方の事情が事情だけにな。内輪だけで式もやったんだ。
  お前らも知っての通り、デーモン大量発生事件もあったしな。」
「・・・なるほど。」
ちょっぴり、耳が痛いかもしんない。
べつにあたしが悪いわけじゃないが、ルークとミリーナの事は、あたし達にとって思い出にするには早すぎる。
痛すぎる記憶だ。
あたし達が苦労してた時に、こいつらは新婚ホヤホヤだったわけか。
だからって、そんなノンビリできたわけじゃないだろうけど。
アメリアが、セイルーンでのデーモン討伐の陣頭指揮をとってたのは噂で聞いてたし。
ってことは、ゼルもそれに加わってたんだ。
「でも、あんた達いつの間にそんな関係になってたのよ。」
いい雰囲気だった事は確かだが。
ゼルとアメリアが顔を見合す。
なんて言うか・・・すごくいい感じ。
おーい。
二人の世界に入んないでくんない?
「ねえ、リナさん?」
「何?アメリア?」
「えいっ!!」
とたんに、世界が反転した。
ちょっと、待てアメリア!
あんた一体あたしに何したの!?



フラッシュバックって言うんだろうか。
頭にいろんな情報が流れ込んでくる。
かつて、クレアバイブルの本体に触れた時とはちょっと違うけど。
グルグルいろんな事が頭の中で回る。
・・ちょっと待て?
「いぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!」
あたしは、力の限りにガウリイをぶっ飛ばした。
何なの?
何なの、これは!?
こ・・・こんなこっぱずかしい///
うううっ。
何で、忘れてたんだろう。
こいつらって・・・そうだ。
ゼル、とっくに人間に戻ってたんだ。
アメリアは妊娠してて、結婚のことなんてとっくにフィルさんの了解もらってて・・・
  そんでもって何かに襲われて幻影宮ってトコ行って。
ゼル達って、実は別の世界の偉いヤツで・・・。
そんでもって・・・。
そんでもって、あたしとガウリイは・・・///
あたしとガウリイはぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ!!
「ちょっと、ガウリイ!!あんた、あたしに近よんじゃないわよ!!」
「いや・・・近寄れないだろ(汗)」
よくよく見ると、ガウリイがボコボコになって伸びているが。
そんな事は、どうでもいい。
「煩いわね!ガウリイだからいいのよ!!」
顔が、真っ赤になっているのがわかる。
「リ・・・リナさん。思い出しました?」
「思い出したも何も・・・何で・・・」
「ごめんなさい。リナさんの記憶消したのって、あたし達です。」
「どういうことよ!?事と次第によっちゃ、ただじゃ済まさないわよ!!」
「わかってます。その前に、ここは危険なんです。会ってもらいたい人もいるし、今から幻影宮に行きますね。」
「・・・・・はっ?」
ここが、危険?
幻影宮って?
なんで、またあんなトコ行かなきゃなんないの?
言葉を発する前に、ゼルが短く呪文を唱える。
なんて言ってるかなんて聞こえないけど、その瞬間、空間が歪む。
黒い渦が収束して、そこには何の変哲もない扉が現れた。
「行きましょっか。」
アメリアが立ち上がりあたしを促す。
「行くって・・・幻影宮に?」
「はい。」
「はいって・・・どうやって?」
以前にそこへ行った時は、アメリア達の子供に引きずり込まれたんだし、帰る時は・・・
そういや、どうやって帰ってきたんだ?
眠ってて、起きたら・・・
そっか。
起きてたら記憶がなくて、普通に宿にいたんだ。
「ここを通ればすぐですよ。」
アメリアが事も無げに言うが。
「すみません。ちゃんとお話ししますから・・・だから、一緒に来てくれませんか?」
「嫌だって言ったら?」
はっきし言って、あたしは今ぶち切れる寸前。
相手がアメリアやゼルじゃなければ、手打ちにしていたところだ。
だって、面白いわけがないじゃない!?
何でどうして、コイツらあたしの記憶なんて消したの?
ゼルとアメリアの事だから、あたしの事考えてしたことなんだっていうのはわかる。
けど、やっていい事と悪い事がある。
記憶を消すなんて・・・。
ガウリイは・・・ガウリイは記憶を消されてなんかないみたいだし。
かと言って、一年以上も前のことを覚えてるかどうかは別の話だが。
コイツら、一体何考えてるんだ?
「力ずくで、連れて行きます。」
「あたしにそんな事できると思ってんの、アメリア?」
「できます。」
あっさりと、アメリアが頷く。
「なあ、リナ?コイツらの言う通りにした方がいいんじゃないか?アメリア、やると言ったらやるぞ?」
いつの間にか復活したガウリイが、あたしの肩に手を置いた。
「あんたは、頭にこないの?」
「そりゃまあ。けどよ、アメリアとゼルにはちゃんと考えがあったんだろ?
  アメリアとゼルが、気まぐれでこんな事したと思っているのか?」
「思ってるわけないじゃない!」
思っているわけがない。
けど、勝手にあんな事したのが許せない。
「向こうに行ったら話してくれるって言ってんだから、行こうぜ。」
「・・・けど。」
「すいません、リナさん・・・。お願いですから、一緒に来てください。」
「リナ・・・頼む。」
驚くことに、アメリアだけでなくゼルまでもが頭を下げた。
あの、ゼルが。
「一つ聞くけど・・・あんた達にとってあたしは何?」
「仲間です。仲間で・・・わたし達の恩人です。」
「恩人?」
「大恩人です。」
「何よ、それ。」
「ごめんなさい、リナさん。ホントにごめんなさい。ガウリイさんもごめんなさい。
   でも、信じてください。こんな事言う資格はないですけど・・・でも信じてください。」
「・・・信じろって、何を?」
「わたし達にとって、リナさんとガウリイさんは本当に大切な人なんです。」
アメリアってば。
人が赤面するようなことを、ホントに簡単に口にする。
このコは、愛と正義と真実のコだから・・・。
それは、疑いようがない。
「わかったわ。」
「ありがとうございます!!」
アメリアの顔が、ぱあっと輝いた。
こんな嬉しそうな顔するなんて。
ゼルも、ほっとした様な顔をしている。
「言っとくけど、貸しよ。」
アメリアが開いた扉をくぐると、

そこは間違いなくアメリアとゼルの本来の居城、幻影宮だった。



                          -第19話へー



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管理人よりの一言:
・・・さて、一体これからどうなるのでしょう?
どきどきしつつ次回を期待しておりますvv