こんばんわ、薫さん。
訂正箇所が火を見るより明らかになってます(笑)
ここらへんで切って送るのは極悪人ですが(←あんたは・・・)次のところだともっとやばいので・・・。
とりあえず前回送ったのは裏話だと思って読んでくれるとありがたいです。次ぎ送るので・・・キリがいいかな?
でもまだ終わりじゃありません♪(こらこら!!)
設定集は届いてます?(本編より力がはいってるかも・・・(笑))では、またのちほど。

by星野

%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%


           エンゲスルレーチ


蒼の檻のとも言えるこの空間で、ウェンは鏡のような地面にうつ伏せになってじっとしていた。
彼がいるここは、ほぼ全ての力を制限する強力な結界の中だ。
当然、転移術や転送装置のようなものを使っても、
一定以上の力を持った存在は必ず結界に拒絶される。
いつもは彼の人外の力で危機を切り抜けてきたが、ここでそのことは致命的だった。
ここに閉じ込められてから、四時間がたっただろうか。
そのうち三時間は気絶していたが。
気付いてから一時間。
ウェンの体は疲労感と必死に戦っていた。
本人は気がついてはいないが。
この大封印を構成している結界の中には、生命力などの類を吸い取り、
結界内に入った存在を行動不能にさせるものもあるらしい。
(・・・・このままだと死んじまう。畜生、何でオレがこんな目に遭わなければならないんだ。
  だいたいあの妖精も、なんであんな森の浅いところに居たんだよ。あるとすれば誰かが召喚するしかありえない。
  こんな辺境であんな強力な妖精を召喚できるのは、オレの両親か、あいつか小母さんくらいだよな。
  それに『おまえ、誰だ?村に引っ越してきたのか?それとも下等妖精か?』
  ・・・なんてちょっと冗談を言っただけなのに、こんなヤバイ所に飛ばさなくても・・・・
  しかし・・・なんだか考えるのが億劫になってきたなあ・・・・・・疲れてるんだろうな・・・・・・)
そんなことを何回も心の中で反復しながらも、
時間が経つにつれて、ゆっくりと、しかし確実にウェンの精神の活性率が低くなり、思考もだんだんと止まっていった――


 一時間は経っただろうか、彼は何か考えたらしく、少しふらつきながらも、ある地点に向かっていった。
彼が向かったのは封印結界の中心部。
ウェンの考えは正しかったらしく、『壁』の内側に移動しても、疲労が増すだけで、拒否反応は無い。
彼は中心部――蒼水晶の中心に置かれている、
彼の背丈のゆうに二倍以上もある巨大な蒼水晶に触れ、何かを呟き始めた。
どうやら彼は、疲労が溜まりすぎたために、冷静な判断力を失っており、封印を解除して脱出しようとした。
――と、彼はそう考えていると同時に、心の冷静な部分で
『止めろ。解放してはいけない』
と叫んでいた。
しかし、ウェンの精神の大半を占めていた部分が冷静な部分を押し切り、解放の呪文を唱え始めた。
さっきの呟きは心の葛藤だったらしい。
その証拠にウェンの詠唱が始まったと同時に、
外側の蒼水晶が連鎖的に砕けていき、空気――いや、空間が大きく振動し始めた。

「ウェン!」
不意に、誰かの声が響いた。
普段の彼ならばその声の主が誰だかは、すぐに理解しただろう。
しかし、今の彼は蒼水晶で造られた結界に大半の精神を喰われていた。
彼の結界に対する推測はおおむね正しかった。
が、一つだけ最も危険な作用を彼は知らなかった。
蒼水晶は最も強力な封印・解放効果がある鉱物の一つだが、
同時に封印・解放した存在の精神を本人が気が付かないように喰らい、人格を崩壊させるという恐るべき効果がある。
そのため、よほど強大な存在を封じる場合以外は、禁忌とされている鉱物なのである。
つまり、彼が『疲労』していると考えたのは、間違いなのだ。
精神を喰われているのだから――。
(やっと――出られる――)
この時点で彼は人格が崩壊するまでには至っていなかった。
しかし、考える機能をほとんど失った彼は、何度も何度も機械のようにその言葉を繰り返していた――


      ◇    ◆    ◇    ◆    ◇    ◆    ◇


「サーラ。」
「ええ、わかってる」
二人はあの会話の後、進行ペースを速めて目的地である第十層に向かった。
このままのペースで行けば、あと数分で着くはずだったが、何の前触れも無く、空間が一瞬ではあるが歪んだ。
その直後に通常の四大精霊力が掻き消え、
代わりに濃密で精霊力が空間を満たし始めた。
サーラは、このことが最悪の事態を示していることを知っていた。


十八年前の悪夢の再来――


ビッキーは十八年前のことを大雑把だが、両親から聞いている。
かいつまんで話すと、十八年前、ビッキーとウェンの両親が旅から帰ってきたころに、大規模な地震が起きた。
そのときに水晶の森にも大きな影響を及ぼした。
ファーサス高地を覆っていた精霊力の自然結界が
一時的ながらも崩壊したのである。
そのときに、莫大な数の『敵』が押し寄せ、その中に二十年前、父親たちが旅先で封じた
『魔神』の中でも最強クラスの力を持つ『破壊精霊』と呼ばれる強大な力を持つ精霊がいた。
そのときは、村人総勢で敵の討伐にまわったが、ほとんどの村人は『魔神』の力に敵わず、
運がよいもので、高位回復術を使用しても全治半年以上。
そうでないものは肉体の一部を吹き飛ばされたりした。
その『魔神・破壊精霊』は、ビッキーとウェンの両親の手によって、
水晶の森の当時、地下第八層にあった結界の中に『破壊精霊』を再び封じ込めた。
現在『魔神』たちが封じられている空間を知っている存在は、
この国の最上層部、村の族長と村長、ビッキーとウェンの両親。
そして、ビッキーだけである。
もちろんウェンはこの事実を知らない。
何故ビッキーが知っており、ウェンが知らないのかというと、両家の親が何らかの話し合いをして教えるか否かを決めたらしい。
サーラもここに何があるかを知っているかもしれないが、今はそんなことを問い詰めている暇は無い。
ビッキーの推測が正しければ、封印されていた奴らが復活する前兆なのだ。
この異変は。


二人はこの異変が発生した地点と思われる
地点の中心に向かっていき、巨大な蒼く光る空間に出た。
一部では『蒼の封印の間』と呼ばれる極めて異質な結界空間である。


空間の中心を見ると、全身が蒼く輝くウェンの姿が見えた。
巨大蒼水晶に触れて何かの呪文を唱えている。
「ウェン!」
止めなければと思ったのだろう、彼女は無謀にも彼に駆け寄ろうとした。
しかし、それはサーラに腕を捕まれたことによって阻止された。
「はなして!このままだと――」
絶叫するビッキーに対してサーラは冷酷で冷淡とも思える反応をした。
「ビッキー。ここにある鉱物は全て蒼水晶よ。幸い外側の水晶はもう砕けて光も放っていいないけども。
  あなた、蒼水晶がどういうものか知ってるの?」
氷のような彼女にビッキーは
『人殺し!』
と、もう少しで思いっきり叫んでしまうところだった。
しかし、彼女の言うことは正しい。
蒼水晶は危険極まりない鉱物の一つなのだから。
しかし――
「わかってるわ・・・・。けど、心配することも無かったみたいよ。見て」
ビッキーの言葉にサーラが怪訝な顔でビッキーの視線を追ってみると、蒼水晶はほとんど光を失い砕けていた。
その代わりに紫と闇が混じったような光が砕けた水晶の欠片から湧き出ていた。
こうなると蒼水晶の特性は無きに等しい。
先のビッキーの言葉はこの事を指していたのだ。
「ね、だからウェンを回収してくるから」
そう言って、彼女は倒れていたウェンを、背負っていた巨大リュックに入れ、それを再び担いで戻ってきた。
「さ、逃げるわよ!あ、サーラの用事っていいの?」
「へ?・・・ああ別にいいのよ、こうなったら何にもできないしね」
「そう、じゃあ全力で逃げるわよ!」
言うが早いか、彼女は脱兎のごとく、ここに来た地上への道を駆け上っていった。
(この娘・・・・スゴイのかどうなのかよくわからない・・・・それに、任務は果たしたも同然だしね・・・・・)
そう思った自分に少し苦笑し、
彼女もビッキーの後を全力で追いかけて行った。



復活の時は確実に近づいている。


     ◇    ◆    ◇    ◆    ◇    ◆    ◇



「おい!」
「ああ、間に合わなかったようだな」
白い翼と黒い翼を持つ父親二人は、飛び始めてから五時間は経つというのに水晶の森の特性のため、
内層部上空を高速で飛んでいた。
二人とも苦渋の顔をして重い空気を纏っている。
この重い空気でそばを飛んでいる鳥も墜落してしまいそうだ。
「あいつら三人が無事だといいが・・・・」
「大丈夫だ。彼女がいる。少なくとも生きてはいるさ」
「そうだな・・・・しかし彼女の力でヤツラから二人を守れるか?」
「まあ、自分を犠牲にしてでも任務を遂行するくらいの根性はあると思うから心配いらないだろ」
「たしかにな――」
どうやら二人は彼女のことを知っているみたいだ。
二人は彼女の実力はあまり期待していない様子だが、かなりの信頼を置いているようだ。
「しかし万が一ということもある。この速度じゃ間に合わん。ヴァン!限界速度まで上げるぞ」
そのセリフに白き翼の男は慌てた様子で反論した。
「おい!俺はともかく、お前は運が悪ければ二度と戦えんぞ!最奥部では全力で戦うことになるだろうからな」
「・・・・・・・・・・・・わかった」
長い沈黙の後に返事があった。
納得はしてないが、理屈は分っていた様で、黒の翼の男はその言葉に従った。
当然のことだが、二人は話しながらも速度を落とさずに飛行している。
「分かってくれたならいい。そのうちあいつらも最奥部に向かうだろうから、心配しすぎると娘と妻に文句言われるぞ」
「ああ、文句を言われないうちに心配するのは止めるさ。心配したところで自体は変わらないのだから」
少し余裕ができたようで、冗談を言いながらも二人は少し速度を上げつつ、最奥部へと向かっていった。



    ◇    ◆    ◇    ◆    ◇    ◆    ◇



ビッキーたちは、自然の刃を巧みに避けつつ、急ぎ地上へと向っていた。
ほとんど休みなしで走っていたため、二人の疲労は溜まる一方だった。
特にビッキーはウェンを入れたリュックを背負いながら走っているため、サーラの倍は疲労していた。
「ねえ・・・・・多少休まない?五分くらいでいいからさぁ」
さすがに疲労の色は隠せないようで、肩で大きく息をしながらサーラの後を追うように走っている。
スピードも最初に比べたらかなり遅くなっている。
「・・・・立ち止まってはいられないけどこれでも飲んで。元気になるから」
そう言ってズボンから琥珀色の液体が入った小瓶を走りながらビッキーの方に放り投げた。
「・・・・ええ」
疑問に思わなかったわけではない。
だがこの状況で質問するわけにはいかなかったからだ。
(う~・・・なむさん!)
そう覚悟を決めて飲んでみると、予想通り。
いや、予想以上のひどい味だった。
まるで濃縮された腐った卵を飲んだような、そんな感じだ。
そのかわりに疲労が吹き飛び体力が戻った。
けど、この味はひどいんじゃない?
「どう?」
「ええ、体力は戻ったけど・・・・・この味は何とかならない?」
その言葉に苦笑しつつ首を振ってきた。
どうにもならないのだろう。
帰ってきた反応に好奇心をかきたてられ、
ビッキーは思い切って聴いてみようとした。

「ねえ――」
質問をしようとして、彼女が口を開いたとほぼ同時に、それは起こった。


         ドゴラアアアァァァァ


音にするのならこんな感じだろうか。
実際には肉体にではなく精神に直接響いた振動であり、
その精神に与えられた衝撃で、二人は走ることを止められてしまった。
その異質精霊波と思われる精神世界に影響を及ぼした波動の後に、
物質世界に影響を及ぼす空間そのものを震わせる波動が押し寄せてきた。
その空間震動波とも呼ぶべき波が、
ビッキーたちに襲い掛かり、洞窟の天井に三人を叩きつけた。
一瞬息ができなくなったが、さっきの液体の効果だろうか。
ビッキーはすぐに呼吸が正常に戻り、痛みも和らいだ。
サーラも飲んだのだろうか。
彼女もさして影響が無いように見える。

「とうとう復活したわね・・・・・」
「けど、復活がずいぶんと遅かったね。三十分以上も経ってるのに。『魔神』がなんかしてたのかなあ」
彼女にとっては何気ない一言だったに違いない。
しかし、その仮説はサーラが考えていた絶対にあってはならない可能性が現実のものとなった可能性があるということだった。
自分では地上に出ることと、任務が最優先だったので、彼女に言われなかったら、襲われるまで気が付かなかったかもしれない。
そう思い、即座に今の事態を簡潔に説明した。
「ビッキー、やばいよ!今、第五層と第四層の間にいる。ここから全速力でいったら、地上まで三十分弱。急ぐよ!」
サーラの緊迫した様子に何が起こったかわからないが、本当にヤバイことを判断して黙って頷いた。
その反応を確認するとすぐにサーラは走り出し、彼女もそれに続いた。


 ◇    ◆    ◇    ◆    ◇    ◆    


                              -第3話へー