管理人よりv
ふふふv
7万ヒットのお祝いにv
こんな素適な長編オリジナルを頂きましたvうふふふふv
では、素適な旅立ちにどうぞなのですvv
##################################
私が訪問したときは、71000を超えていましたが、7万ヒットおめでとうございます!
お祝いといってはなんですが、私の駄作小説をご迷惑でしょうが送ります。
できれば、感想をいって下さるとありがたいです。
ちなみに某作品を参考にしたオリジナルです。では、また。
エンゲスルレーチ
凍れる大気に触れる息はそのまま結晶化して砕けそうであった。
ここ、水晶の森は風の大陸では
ファーサス高地でしか見られない稀有な自然のひとつではあるが、
それが高地の七割を占めるとなると貴重でもなんでもない。
ファーサス高地の森林地帯が希少だといえる理由はない。
ただ需要が大きすぎるため、それに対して森が与えてくれる恩恵が追いつかないということに過ぎない。
それが恩恵か疑問に思う者もいるらしいが――恩恵は恩恵だった。
少なくとも彼女たちにとっては日々の糧ではある。
それに少女にとってそんなことはどうでもよかった。
この森を進むことに何の苦労もない。
歩くことを困難にする蔓や下草の類などは、仮に外地から新たに持ち込まれたとしても、水晶の森では数分も持たずに朽ち果てる。
ここでは圧倒的な寒気と強大な生命力に耐えうるような、
通常の自然界で無意味なほどの強さを持った少数の生命のみが生きることができる。
もちろん人間という種族はそれに含まれてはいない。
あるいは生きてはいないものだけがここに存在することを許される。
砂、岩などの無機物。
それにここで生きることができる生物も植物が無機質化したような結晶樹と特殊鉱物生命体のみだった。
この森は常に無機質のほうに純化している。
透き通るような砂。地面も心なしか透き通るように見える。
ブーツの底が不愉快な引っ掻き音を立て続けていた。
だが彼女には、そんなこともどうでも良いことにすぎない。
彼女にとって問題があるとすれば、このままではそれほど待たずに自分の生命活動が停止する可能性が大きいことである。
こごえた指を開いたり閉じたりして血液の循環が停滞しないように努める。
鼻の奥に激痛を感じれずにはいられない。
この寒気には数年たった今でもなれることはない。
逆に生命力の流れには慣れてきた。
初めのころは数時間いただけで気を失ってしまったほどだが、
今では強力な防御装置をつけずとも入ることができる。
ぶ厚い防寒具を着込みその中で身を縮ませて、ビッキー=ファン=ラズリピスは、こごえきった声音でつぶやいた。
「さぶい」
声は白く渦巻き今にも消え入りそうだった。
「おまえは大げさだよ」
返ってきた声も似たようなものだったが幾分野太く低い。
「寒い・・・もう死ぬ」
「大げさだ」
「寒い・・・もうだめ・・・」
「大げさだ」
目の前を進む男はただそれだけを繰り返してきた。
口を開くだけで喉が凍りそうな気がしたため言葉を止めて、
防寒服に仕掛けてある自前の仕掛けを作動させた。
服に多少の熱がまた戻る。
凍えて涙も出てこないが、泣きたいような気分になってくる。
と、前方を進んでいる男が振り返りもせずにつぶやくのが聞こえた。
長年の経験から男がこうつぶやくときには、何かを教えようとしていることをビッキーは知っていた。
「これはただの寒さではない。ほぼ全ての生命を侵食し風化させ固定していく、巨大な空隙だ。
人が踏み入れて無事にすむ場所ではない・・・が、ここでしか得られないものもある。わかっているだろう?」
ビッキーは口を尖らせた。
「ウェンの家みたいに機械でもいじって暮らそうよ。絶対そのほうが割りがいいって。
実際、私も副業としてウェンの家で修理工をしてるし」
「副業は副業だ。それを本業にした場合ウェンの家が困るだろう」
「じゃあ近くにある廃品工場があるから、
そこから使えるものを運んできて修理して売るとか」
「おまえに、それができないとは言わない。だがあそこにあるものは、正真正銘のくずだ。修理もできん」
「じゃあ結婚でもするよ。村長の息子が嫁を探してるんだって。もうじき四十にもなるものね」
「ふざけたこというんじゃない。おまえはまだ十三だろ。それに愛は探すものではなく出会うものだ」
男が肩越しに振り向いたのは苦笑したためか・・・
とにかく男――ヴィンス=ラズリピスの白い息が渦巻いたということは笑ったということだろう、白い息のせいでよくわからないが。
ヴィンスはゴーグルとイヤーマフッルを直しながら、ヴィンスはまた前を向いた。
ふと思い出したように言葉を付け足してから。
「そして、愛のない結婚は苦痛でしかないよ」
「・・・そんな結婚したことがあったの?父さんは」
「いや。ただ単に友人がそんな結婚をして、その様子を見たことがあるだけだ」
妙に納得してビッキーはヴィンスの背中を見つめた。
おそろいの防寒服を着ているが、そのサイズがまったく違う。
ビッキーのは百五十くらいだがヴィンスのは百八十はある。
彼は身長に見合った横幅もあり、体重ならば彼女の倍以上は軽くあるはずだがその足取りは機敏だった。
水晶の森は彼女の記憶にある中では生い茂るような下草もなく、
憎たらしいくらいに歩きやすい森だが、それを差し引いても、彼の足は速い。
この森の地面で転ぶとたちまち肌がずたずたに引き裂かれてしまうため、装備は自ずと重くなる。
実際ビッキーは二重に覆う防寒具にうんざりしていたが、彼はさらにビッキーなら入り込めるほどのバックパックを背負っている。
それでも彼女よりも歩速が速く、数分に一回は声をかけて待ってもらわねばなかった。
彼女は、ため息をついた。
息とともに体温が少し外に出ることが、もったいないような気がしたが。
四歳になったとき、我が家の伝統だ。
とか言って初めて父に、この森へと連れてこられた。
以来八年間、定期的に『狩り』に来るたびに、同じ不平をぶつけている気がする。
今回の、結婚というのは新しい話題だった。
もっとも、真に受けてもらうには、あと数年がかかるだろう。
しゃべりながらも、足を止めることはない。
森はどれほど奥に行こうと外観は変化しないが、最奥部に近づくことには意味があった。
――奥に行けば行くほど大物がかかる。
「・・・・・・」
その川を流れている透明な流れは、水ではなかった。
細かく鋭い繊維の集まり――手を入れれば骨までえぐられる危険な小川。
こうして覗きこんでる分には、どんな霊水より澄んで見えたが。
水面に映る自分の顔を一瞥して、周囲を見た。
最外層に近いこの地点では何故か今までの森とは、外観が少々変わっていた。
周囲の結晶化がますます増し、それが光を乱反射させて、
あたかも光妖精が舞っているような幻想的なものが、空間に映し出されていた。
もう一度小川を眺めると、さっきは聞こえなかった音が聞こえてきた。
どうやらここで『狩り』をするらしく、背後から父がテントを組み立てる音が聞こえてきた。
テントはビッキーとウェンの両親と共同制作した特別製で、完全密封で、骨組みとバネとで組みあがる、
やけに複雑な品物で、扱いを知らない人がうっかり骨の一本でも曲げれば、あとは枕にもならない。
だが、こんなものでもなければ、地面に触れることすら危険なこの地では夜をすごすことすらままならない。
水面でこちらを見返してくる自分。
毎朝鏡で確認する、というのも一日に数回しか鏡を見ることがないともいえる。
少し鋭い眉、年齢にしては少し大人びた輪郭、漆黒の髪、漆黒の瞳――、だがそれより自然と、意識は左手にいった。
別に手袋の上からは何も変わったところはない、しかし水面に映っている左手は、何かの紋様が浮き出ている。
「ビッキー」
と、背後から呼びかけられた。
「そこにつまずくだけで命はないぞ」
ビッキーはそれに従って、川面から上半身を後退させた。
父は既にテントを完成させ、荷物を中に入れている。
入り口が大きく開かないようにできているため、難儀しているようだった。
「手伝うよ」
今さらではあることは分かっていたが、とりあえず声をかける。
彼は案の定、頭を振って見せた。
「もう終わる」
「じゃあ、終わるとこまで」
「もう終わった」
「ちぇっ」
口を尖らせ、うめく。
息までも白く細くなっているのが見えた。
「さあ、文句を言わずにこれを取り付けろ」
彼はそう言って荷物の中から直径三センチメートルほどの紐付のガラス球を取り出した。
正確にはガラス球ではなく、特殊な製法で作り出した人工水晶である。
宝石としての価値はなきに等しいが、ビッキーはこれを見て露骨に顔をしかめた。
「こんな浅いところに、ろくな精霊がいるわけないよ。そんなもん仕掛けてもさ」「奥地でも精霊が捕らえれるとは限らない。
小さな精霊でも捕らえれば、小銭程度にはなるだろう」
「私の小遣いにして良い?」
「まあ三%くらいならいいか・・・」
「けち」
「そんなことを言ってないで、早く作業をしろ」
「まったく・・・」
結局、彼の差し出した水晶檻――その紐付の玉を受け取って、ビッキーは嘆息した。
肌を刺すような森の寒さは今でも変わらない。
テントの中で暖をとりたいという、欲求を抑えるにはかなりの努力が必要だったが、たいした時間はかからなかった。
欲望を振り切ると、テントから離れるように歩き出す。
足取り軽く―というわけにはいかないがなるたけ急いで、結晶化した幹の間を駆けていく。
空気までも鋭く凍えた中を足早に進んで、ビッキーはふとした違和感があり左右を見渡した。
しかし、森の中は静かで、生命のざわめきも揺らぎも澱みもない。
あるのはただ、拡散しきった静寂のみだった。
気のせいかと思い、水晶檻を見た。
もこもことした手袋の中でのいくつかの玉は、鳥の巣で寄り添う卵のようにも思えた。
適当なところで、彼女は立ち止まった。
水晶檻のうち一つを左手に持ち意識を集中させる。
「我は汝に命ず 我が望むのは汝が力の解放 汝は戒めの檻」
呪文に応じて、水晶檻の玉の中に光が満ちてくる。
「汝の力は解き放たれたし・・・・・起動完了♪」
玉全てに光が灯ってからビッキーは、満足して笑いかけた。
紐をつまんだままくるりと回して、手近な水晶樹に結び付けようとし――
「・・・・?」
動きを止めた。
突然、光がふっと消えたのだ。
「・・・閉じた?」
水晶檻の光とは比喩的な表現をするなら、『扉』だった。
光が灯っている間は『扉』が開いており、光が消えている間は『扉』は閉じているのだ。
扉が閉まるときは、今唱えた『開門式』の逆、『閉門式』を唱えるか、あるいはオリの内部に獲物がかかった時、
それ以外はありえない。
「ん・・・・?」
目を細めて、光の消えた玉を覗き込む。
白くぼやけた玉の中に、虹色の影が揺らいだように見えた。
「・・・・・」
しばしの沈黙をはさみ、ビッキーはあきれたように呟いた。
「こんなに早くかかるなんて、馬鹿だね、あんた」
そう水晶檻の中で揺らめく影に向かって、告げる。
「ま、ラッキーってことかな。もうけ♪」
檻をポケットに入れようとした、刹那。
きっ――小さな音だった。
静寂に満ちたここでなければ聞こえなかったほどの。
硬い物が弾ける、心地よい音、美しく、破壊的な。
「えっ・・・・・」
驚いて彼女は再び水晶檻を見下ろした。
真球の表面にひびが入っている。
「やばいっ?」
とっさに、それを放り出す。
冷気と生命力の奔流を切り裂いて、小さな檻は飛んだ。
同時に防御術を驚くべき速さで詠唱する。
そして、術が完成すると同時に。
閃光が瞬いた。
稲妻のような――ただし音のない。
無音の輝きが、極寒の空気を縦横に引き裂く。
光だけならばさほど影響はなかっただろうが。
「ぐううー?!」
防護壁の外では激震が起こっているようだった。
防護壁を張るのが、ほんの少しでも遅れていたら、強大な衝撃をもろにくらっていただろう。
しかし今のビッキーは、そんなことに気付く余裕はなかった。
目を閉じていなかったため、もろに目を焼かれたのだ。
「混・・・沌の海にたゆたいし・・・・光と闇を律する・・・もの その偉大・・・なる汝が・・・力もて 我に癒し・・・の光を与えん・・・ことを」
途切れ途切れながらも最上級の回復術を詠唱する。
目は迅速に治療しないと後遺症が残る恐れがあるため
完全に治療できる術を選択したのである。
「・・・・極光癒(プレイズインフィニット)」
魔法発動と同時に、患部に金色と銀色の淡い光が集結し、光が消えたときにはビッキーは完全に―
―いや、むしろ前より良くなった視界を取り戻していた。
(よかった・・・成功した。さて、と・・・)
防護壁を解除してあたりを見渡すと別にたいした変化はなかった。
しかし、自分があの衝撃をまともにくらっていたとしたら、体は吹き飛ばされ、天然の刃に引き裂かれていただろう。
「いや、大したもんだよ。人の身でそんな術が使えるなんて」
不意に耳元でした声に背筋が寒くなって、振り向く。
「だけどその怪我は自業自得って言うやつだな。
なにせこのボクを捕らえようとしたんだからな、キミの態度しだいでこちらの対応もかわる」
それは、ほんの耳元に浮かんでいた。
いつからそこにいたのか分からないが、軽く腕組をして。
「だれ?」
彼女は率直な意見を述べてみただけなのだが、妖精らしきものは気分を害したらしく、露骨に憎悪の表情が表れた。
「だれだって?なら教えてあげるよ。僕の名は空間妖精のプールトだ。
キミのその言葉でボクを怒らせてしまった。運が悪かったね、さっきもウェンとか言うクズに愚弄されたのだから。
キミも同じ目にあわせてやるよ」
だいたい聞き流していたが、今の一言だけは聞き流せなかった。
「ちょっと!ウェンをどうしたのよ?」
「やつなら、この森の最奥部に飛ばしたよ。心配しなくていいよ、キミもすぐやつの元に送ってやるから」
言うが早いか言い終わった直後に
ビッキーはまばゆい光に包まれて、光が引いた後には誰もいなかった。
気が付いたときには、ビッキーが今まで見たことがない景色だった。
あらゆる色に揺らめいている巨大な水晶樹。
それを囲むようにして群生している光と闇の水晶樹、それに地面は半透明ではなく、
不透明のさまざまな色に鈍く輝く結晶化した地面だった。
どうやらここは、さっきの妖精が言ったとおり森の最奥部らしい。
ビッキーはしばし呆然としていたが、正気に戻るといなや、呪文詠唱を始めた。
それも、精霊付加術を加えて。
「エンデシィング。」
呪文詠唱終了と同時に淡い光が球状に広がった。
どうやら今、唱えた術は探索系術らしい。
(ウェンは・・・えっ?)
反応が出たのは、意外なことに地上には反応が出ず、地下約百メートル地点だったのだ。
だからといってウェンをほっとくわけにはいかず、巨大水晶樹のうろが地下層の入り口らしいので、
そこからビッキーは地下へと進んでいった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ヴィンス!大変だ!」
なにやらあわてた様子で、ヴィンスと同じ装備をした藍色の髪をした男が空から現れる。
「どうした?ヴァン。なにがあった?」
いままでのんびりと獲物を待っていた彼であったが、男の様子を見て鋭い目つきになった。
長年の付き合いでヴァンがこういう態度のときはよほどのことがあったことをヴィンスは知っていたのだ。
「それが・・・・ウェンが空間妖精に、ちょっかいをかけたらしくて、森の最奥部に飛ばされたんだ!
それに、どうやらその後にビッキーのやつも同じやつにからまれたらしくて、ビッキーも同じように飛ばされたんだ!」
冷静に聞いていたヴィンスであったが、後半の話はさすがのヴィンスも冷静に聞いていられなかった。
「なんだと!ビッキーが最奥部に!こうしてはおられん、我らもすぐに際王部に向かう!」
「もちろんだ。あいつらも心配だが、あの封印を破られたら・・・」
そう言葉を交わした後に二人はなにやら呪文を唱え、背中に翼を出現させて空を翔けて最奥部へと向かった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「・・・流石に水晶の森地下層ね・・・」
そう一人呟きながらも、
天然の刃を避けていく銀髪の長い髪の女性が洞窟の中で見られた。
外見からすると二十歳前後であろうか。
細かく描写するならば、髪の一部を紅の球形宝石護符で止め、金色のネックレスを二つ付け、
黒のアームウォーマーに黒のぴったりとしたノースリーブ、下はジーパンとなっており、
その部分は薄く引き延ばしたオリハルコンを原料としているらしく
鈍い銀色である。そして白のロングブーツ。
背中には運搬用の大きなリュックを背負っており、少し汗をかいている。
どうやら地下層はある一定以上行くと、地上よりも温度がずっと高いらしく、
リュックにぶら下がっている乾湿計を見ると、ゆうに二十℃は超えていた。
もっとも、地下第十層より奥深くに行けばどうだかは知らないが。
(・・・けど何なの?この気温、地下第三層までは零度を切っていたというのに・・・)
気温は地下第三層までは、マイナス十度前後の寒い層だった。
だが、第四層になってから急に気温が上がり、ここ、第五層では、二十度前後の温暖な層になっている。
気分転換に小休止して、周りの風景を見てみた。
周りの風景はとても美しかった。
完全に結晶化した壁がほのかに光を放ち、
天然の刃が光を反射させ、水晶が立ち並んでいる。
それに加え、無形精霊たちが無数に漂っていて、危険に満ち溢れ、獰猛な魔竜でさえ逃げ出す、
という事実を忘れてしまいそうになるほどの幻想的な風景だった。
自分の足元に結界を張って、安全を確保して食事でもしようかと思った。
ふいに、自分以外の気配がして女は反射的に構えた。
反応の速さからいって、女は暗殺技能者か諜報部員だろう。
ほかの可能性も無い訳ではないが。
「ウェーン。そこにいるのー?」
甲高い少女らしき声がしたので、戦闘態勢を解きはしたが、警戒は怠らない。
声からして敵意は無かったので、警戒しながらも返事をしてみた。
「残念だけど人違いよ。手伝いましょうか。その人を探すことを」
声の主は返事が帰ってきた事に驚いた様子ではあったが、
すぐ言葉が返ってきた。
「あっ・・・お願いします!じゃあ今からそちらに行きますね」
声の主はすぐに現れた。
年の頃は十三くらいで、漆黒の髪の長い少女。
少女も女と同じく大きなリュックを背負い、
赤のボレロを着て、その中に魔導文字のアクセントが付いた深緑のTシャツ。
下も深緑の腰布にボレロと同じ色のキュロットを履いており、黒のロングブーツを履いた一風変わった魔道士の姿だった。
「あなたは・・・?」
「ビッキー。ビッキー=ファン=ラズリピスです。そちらは?」
「私はサーラネイウン。サーラと呼んで下さい。で、ビッキーさん、あなたの探している人は、なんでこんなところに居るんですか?」
聴いてはいけないと思ったが、
どうしても腑に落ちずに思い切って聴いてみたのだ。
しかし、予想とは違いビッキーは躊躇せずに答えてきた。
「あの、ビッキーって呼び捨てにしてください。どうも警護って苦手なので。
あ、そうそう。ウェンのことですけど、あいつ何をしたのかは知らないんですけど、
空間妖精を怒らせちゃったみたいで、ここに飛ばされちゃったみたいなんです。
そのあと、わたしも同じ妖精に怒りを買ってしまったらしくて、ウェンと同じく最奥部に飛ばされたんですけど、
ウェンが居なくて、魔法を使ってみたらここの地下百メートル地点に反応があったのでそこを目指してるんです」
それを聴いてサーラは唖然とした。
よく妖精を怒らせてその程度で済んだものだ。
それにビッキーが目指しているところは、丁度目的地の近くだったため、
封印に彼女が探している人が触らないかと危惧したためだった。
「そういうことですか・・・・あ、呼び捨てこっちもいいですよ。あと敬語やめてくださいね。こっちもやめますから。
じゃあビッキーさ・・・ビッキー、行こうか」
「うん、行こう。サーラ」
そのころ二人の父は死力を尽くしてビッキーたちを助けに行ったのだが、
肝心のビッキーはウェンを助けるという大義名分の前に、そんな二人のことはきれいさっぱり忘れていた。
サーラに対しては、不思議な感じのする人だと彼女は思ったが、あえて何も聴かないことにした。
理由は単純明快で、彼女のことが気にならなかった訳ではないが、今はウェンを救出することが先決だからだ。
サーラにしてもビッキーは不思議な少女だった。
サーラが何でここに居るのかも聞いて来ないし、なにより自分を恐れなかったからだ。
まあただ単に無邪気でウェンを探すことしか頭に無かったからかもしれないが。
なんにしても、二人の目的地である第十層の中心部に行くことには、かわりないのだ。
そう思って彼女は思わず笑みを漏らしたのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「う・・・ここは・・・?」
目が覚めたら、自分が知らないところだった。
周囲を見渡すと、どうやら親から聞かされていた水晶の森の地下層のようだ。
だが、ここは本当に水晶の森の一部なのだろうか。
周りには危険な天然の刃がなく、ただ鏡のような地面があるだけだった。
(なんだよここ・・・・)
少年――年の頃はビッキーと同じくらいであり、防寒具を羽織っていた。
しかし、その格好では暑いらしくなにかの呪文を唱え、
詠唱が終了したと同時に黒の革ジャンに黒のぴったりとしたズボン。
革ジャンのしたには白のノースリーブを着ている姿になった。
(これでよし・・・と。ん?あれは・・・)
少年――ウェンが向かったのは、
洞窟の先にある他の所よりうっすらと明るいところだった。
そこにたどり着いてみるといなや、
「すっげぇ・・・・・・」
感嘆の声があがった。
無理もない、そこには他とは比べられないほどの広さを持った大空洞だった。
そしてその中心部には、蒼水晶で造った五芒星が何重にも重ねられ、強大な封印をなしていた。
本能的にやばいと判断したウェンは、そこから静かに立ち去ろうとした。
しかし、それの思いはかなわなかった。
封印の中にいつの間にか入ってしまったらしく、出られないのだ。
どうやらこの封印は、自由には入れるが、中からは出られないようになっているらしい。
出る方法も無いわけではないだろうが、そんな方法が見つかるはずも無く、
それに加え魔法を完全に打ち消すタイプの結界も重ねてあるらしく魔術も使えない。
八方塞のため、躍起になって探しているだろう父親とビッキー・・・・・・・は無いかもしれないが、とりあえず救助を待つことにした。
彼がここに飛ばされて、すでに三時間がたとうとしていた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ねえサーラ、今第八層に居るんだよね」
「そうよ。それがどうかした?」
ビッキーとサーラの二人が会ってから二時間。
予想より時間がかかっている。
そしてその二時間の間にウマが合うのか、意気投合したのだ。
ビッキーのある友人がこの事実を知ったら、非常にいやな顔をするだろうが、二人にはそんなことは関係ない。
二人はとりとめの無い世間話をしながら、第七層までは進んでいったが、第八層からは、そんなこともしてられなくなった。
「いやだってさ、この層に入ってから妙に強力な精霊が出てきたじゃない。昔母さんに聞いた封印のせいかな。と、思っちゃって」
「それは多分ビッキーの考えたとおりだろうね。私がここに居る理由は、その封印の現状確認だから」
「ふーん。サーラってこの国の特務隊なんだね。こんな危険な仕事をするなんて、よっぽど腕がいいんだ」
明るく嬉しそうに話すビッキーに対してサーラはなにやら暗くなって、
「特務隊と言うのは正解よ。ここに派遣された理由は、あいつらは厄介払いをしようとしてるだけよ。
できるだけ自分達のもとから離そうとしてるだけ」
投げやりな感じで言い放つサーラに
ビッキーは戸惑ったようで立ち止まって何をしたらよいかわからないように沈黙している。
そんなビッキーに、サーラはばつが悪そうにして額に手を当てながら、ビッキーに謝るようにして頭を下げる。
「あ・・・・ごめん。少し感傷的になっちゃったから・・・ごめんね」
「ううん。気にしないで、ちょっとびっくりしただけだから。
そういや思ったんだけど、サーラがこの国の特務隊の一員なら、なんで私にそんな話をペラペラ喋るの?」
その言葉に、一瞬、空気が変わった気がしたが、次の瞬間にはいつもの空気に戻っていた。
もっとも、元々ここの空気は、地上の空気よりも精霊力が濃いせいもあって、
いつものとはとても言えないが。
「ああ、そのことなら、ビッキー。あなたが信用に置ける存在だからよ。納得いった?」
「・・・・うん。納得した」
口ではそう言ったが、そんなことはある分けがない。
国の特務隊。
と、思われる彼女があんな危険なとこにいくわけが無い。
来たとしても、一般人であるビッキーには、自分の素性や任務内容をたとえ拷問されたとしても吐く筈が無い。
話すとしたならば・・・
・・そこまで考えてからビッキーは考えるのを止めた。
この問題は、時間をかけて解くべきもの。
または、けっして終わりのないメウビスの輪のような問題だと考えた。
どちらにしても自分には関係ない。
気を取り直して、いつの間にか変わった話題を元に戻した。
このことも彼女が計算してやったことと考えたが、
そんなことを考えても意味が無い。
「それじゃ早く進もう。もう洞窟に入ってから五時間もたってるんだから」
「あら、もうそんなにたつの?なら急がないとね」
ビッキーが考えていることに気が付いていない――あるいは気付いていないふりかもしれないが。
そのようなビッキーの心の葛藤とは別に、彼女の体はサーラと一緒に地下奥深くへ進んで行った。
-第2話へー