まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

ようやくラストですvv

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重なり合う協奏曲~新たなる世界へ~

「「「――あれは……」」」
かつて、そのものをみたことがあるものは、思わずその姿に、形に言葉をだそうにも、その続きがでてこない。
ロイドもおもわず、それをみたとたん、横にいるコレットに視線をむけ、
また改めて、その物体を凝視する。
銀色にと輝く、大きな蓮の花のような、”何か”。
かつて、ロイド達はみたことがある。
救いの塔で。
コレットを救出に向かったときに。
当時はかの”種子”の中にマーテルの魂が閉じ込められていた。
その後はコレットも。
では、あれは?
「あれは…どういう……まさか……」
リフィルが何かに気づいたらしく、小さく乾いたような声を紡ぎ出す。
新しき理。
今、エミル…否、精霊ラタトスクとおもわれしものの声は、そういった。
そしてあの当時。
ラタトスクが産みだせし精霊達はこれ以上、世界に干渉することはない、と。
自身の生み出したマナをも人が感じられなくする、と。
では、もしも、もしもではあるが。
ラタトスク自らが作り出したマナでなければ?
そして、リフィルの予想が、予測が正しければ、エミルがここにきている理由。
それは、きっと……


「――新たな時はきたれり。我が名のもと、精霊達の名において。
  ここに新しき銀の大樹とともにいき、地上の命をみまもらん新しき命の誕生を宣言せし!!
  集え、大樹カーラーンのもと、うまれし、精霊達よ。
  汝らの後継者たるものたちに新たな祝福をあたえたまわん!!」
人々が困惑し、さらには幻想的な光景をみせられ、絶句している最中。
突如として、誰のものともしらない”声”が響き渡る。
その声も、不思議と誰もの耳に、すとん、とひびきゆく。
それは場所を離れていても、壁を隔てていても、
淡い光にまるで、誘われてあらわれたかのような、長い金髪をした”ヒト”。
いや、ヒト、であるのかどうかすらあやしい。
男なのか女なのかもわからない。
ふわり、とのびている金色の…光によっては銀色にもみえる不思議なさらさらの長い髪。
その髪はとてもながく、というかどうみても、その人影は浮いている。
正確にいえば、その人影があらわれたのは、種子のほぼ真上。
ゆえに、人々は絶句せざるを得ない。

エミルを注意深くみつめていたものですら、いきなりエミルがきえたとおもえば、
次の瞬間には別のところからあらわれたのを目の当たりにし、驚かずにはいられない。


「――ここに、大いなる意志の許可のもと、この場に遣われしディセンダーの名と大いなる意志…
  万物の母であり父であるすべてなる王の御名のもと。
  新しき歴史の始まりを宣言せし!生まれいでるは新たなる精霊!
  この大地とともに、大樹とともにいき、地上を見守る役目をもった存在たちなり!」
ミトスが、高らかに宣言する。
大いなる意志。
それは、マーテル教の教典の一節にもある。
女神マーテル達、否、すべての命のうみの親ともいえる万物の王であり、神。
では、あの人物?は。
その大いなる意志が遣わせた存在なのだろうか。
マーテル教の教団長が宣言したからには、そう、なのだろう。
だが、人々の困惑よりもはやく、人々が絶句せざるを得ない光景がすぐに訪れる。
金の髪の人物…名は知らないが…もっとも、”彼”を視知っているものは知っているが…
が、そう宣言するとともに、ふわふわと空中にと浮かんでいる銀色に輝く蓮の花のような物体。
まるで銀の水晶でできたかのようなハスの花のようなそれ。
それらの周囲に爆発的に光が集い、やがてそれらは別々の形を作り出す。
炎をまといし、ヒト型をした、何となくたくましい男性をおもわせるような”何か”。
それこそおとぎ話の炎の精霊が実際にいればそうであるような、その容姿。
ふわり、ふわりと舞う、かわいらしい、三人の翼をもった小さな少女たち。
どうみてももぐら、にしかみえない、どこか愛嬌のある動物のようなもの。
水をまとっているような服をきているようなもの…
「あれは…まさか…精霊達…なのかい?」
絶句している皆のもとに、一人の女性がつぶやいた声が自然となぜだかつたわってくる。
静かすぎる空間の中、その声は異様に響いた、といってもよい。
神秘的すぎる光景に誰もが絶句している中、つぶやいた一人の女性。
十二単、とよばれし服を着こなしている黒髪の女性。
ジャポン一族、とよばれし特殊な一族な、現人神、として敬われている一人の女性。
一節においては、彼女もまた千年前の出来事によって先祖返りし、
フェザー・フォルク、とよばれている天使達とほぼ同様な力を得た、といわれている。
実際、かの姫…いや、この場合は女王、というべきなのだろうか。
ともあれ、彼女をしるものは、まったく歳をとっていない、という。
その特性はまさに、フェザー・フォルク、とよばれている、かつての天界人のありよう、そのまま。

千年。
過ぎてみれば、それはついこの間のことのようにもおもえる。
でも、実際に過ごした時間を考えれば、それはとてつもない時間。
エルフやハーフエルフといったものたちは、そんな時間を生きているのだ。
と嫌でも実感できた。
自身がそのような長寿生命体になっているなどと、当時は夢にもおもわなかった。
ウィノナより聞かされて初めてしった。
試練を乗り越え、古の…古代の力を取り戻している自分たちは、
かつてのデリス・カーラーンの民と同じ性質になっている、と。
すなわち、ヒトであるならばものずこく長生きしても百年いくか、というくらいなのに、
エルフやハーフエルフといったものたちの平均寿命は約千年。
そして、古のデリス・カーラーンの民は、成人後、本来ならば老化速度がとまっていたらしい。
長寿生命体であるがゆえ、子をなすにもなかなか時間がかかる、とも。
もっとも、この惑星に移住をし、長き年月の間にその性質は失われてしまっており、
あの時のようなエルフの特性、におちついていたらしいが。
「うわ~…精霊さんたち、かわらないねぇ。あれ?みたことない精霊さんみたいなのもいるよ?」
「…おそらく、時の精霊セグンドゥスとか、そのあたりでしょう。
  …心の精霊ヴェリウスの姿もあるようだしね」
オリジン、マクスウェル、といった精霊達はエミルの真横に出現している。
アスカやルナは、そんなエミルと大いなる実り、その間に。
他の精霊達、すなわち、八大精霊とよばれていたものたちはまるで大いなる実りをとりかこむかのように、
きっちりととある方位に一定の距離をたもって具現化しているのがみてとれる。
上空よりみれば、彼らの位置は、まさしく八方陣を描くようになっているように気づくであろう。
いつのまにか、心の精霊ヴェリウスらしき、狐のようなあの独特の姿をしている精霊は、
ウィノナの真横にと出現していたりする。
「――我が許可のもと、汝ら、新たなる後継者を、今、ここに!」
『現れいでよ。我らが後継者となりし、この世界における新たなる精霊よ!!』
オリジンが、マクスウェルが、ウンディーネが、イフリートが。
この場に顕現しているすべての精霊…心の精霊ヴェリウス以外の精霊達。
それらが一斉にと、エミルの言葉をうけ、大いなる実りにむかって、手、そして手?らしきものを伸ばしてゆく。
いくつもの光が精霊達より発せられ、大いなる実りの中にと吸い込まれていき、
やがて、大いなる実りが虹色に輝き、それとともに、大いなる実りが爆発的な光とともに弾けゆく。
弾けた大いなる実りはいくつもの色をもった球体となりて、やがてその球体はそれぞれの形をなしてゆく。

紅い光よりは、炎のヒト型、というようなものが。
白い光よりは、エルフの耳をさらにとがらせたような耳をもった淡い青色の髪をした女性のようなものが。
透明な光よりはその背に輝く八枚の翼をもちし男性のような姿をしたものが。
そして、それ以外の光の球体よりは、
闇を凝縮したうな、くねくるとした動きをみせるヒト型のような、何か。
バチバチと電撃のようなものを周囲にまき散らす、まるっこい、何か。
ふわふわと空中に浮かぶ少女のような、何か。
その周囲にはさらに小さな少女のようなものが浮かんでいるのがみてとれる。
にょろにょろと、どこぞの海にすまう生物を連想させるような、白い何ともいえない”何か”。
そして、あらわれたうち、二つの光は、ふわふわと老人?と、
屈強の、なぜか腕が八本ほどある男性?のような姿をしているもののもとにとむかってゆく。

「ふむ。では、ゆくとするかの。我が孫娘たちよ。ミラ、そしてミュゼよ」
「「は、はいっ!!」」
ふわり、と老人がゆっくりと地上に降り立つ。
どこからどうみても老人、なのに。
その威圧感は半端ない。
もっとも、空中にいる金髪の少年ほどではないにしろ。
「千年の時をえて、汝らは人の世界をより学びしものとおもう。
  これよりは、汝らが我らの後継として、新たなるマクスウェル、
  そしてオリジンとなりて、人々を見守り、新たなる精霊達を導く役目を担うものとするものなり。
  依存はないぞな?」
この地であるがゆえ、その力を利用して、実体化していたミュゼと、
公国の代表のうちの一員、としてこの場にやってきていた二人の女性が名をよばれ、
ゆっくりと銀の大樹の前にと進み出る。
「ミラ。汝に我が、マクスウェルの力…元素を司りしを」
「ミュゼ。汝に我がオリジン、無を司る力を」
ミラが地上にて、マクスウェルから光の球を託される。
ミュゼは上空にて。
少しばかり浮かび上がったところにて、同じく光の球を授けられる。
この場にいるものたちは、何がおこっているのかよくわからない。
だが、伝説には、かの地の現人神とよばれているマクスウェルとなのりし姉妹は、
正真正銘、精霊マクスウェルに育てられているものだ、という一節もある。
それが嘘かまことか、今をいきるものたちが知るすべはほとんどないが。

二人が光の球をうけとったのをみてとり、
「――今、ここに、我は宣言せし!今こそ新たなる理を、ここに!
  ”我がマナ”をいまだ汝らは感じることはできずとも、
  汝らのそれはこれからの心次第!これよりは、汝らは銀の大樹のマナ…
  ユグドラシルのマナを感じ取ることは可能とするものなり!
  新たなる精霊は、地上にいきる命の代表、人々の心の結晶そのもの。
  人がその心を忘れぬかぎり、精霊達もまた汝らとともにあることをっ!」
高らかに、エミルの声が…否、”ラタトスク”としての声がその場にと響き渡る――


どくんっ。
これは…この感覚は。
その声が届いたのは、世界中の人々へと。
なぜか人々の脳裏に映し出されたは、光とともに異形の何か、がうまれゆく様子。
だが、無意識のうちに、理解する。
伝説にある、それこそ物語の中でしかしらなかった精霊。
そんな女神マーテルに仕えているという精霊が、新たに生まれたのだ、ということを。
そしてそれは、今度は女神マーテルに仕えている、のではなく。
銀の大樹とともによりそうために生まれたのだ、ということを。
常に自然とともにあり、自然に感謝を忘れなかったものたちは、誰ともなく理解する。
自然と感じられるようになった、新たなる”力”。
それこそが…女神ピックフォートが産みだしている力、だと。
新たな大樹の精霊となった女神の力である、とその力を感じ取ったものは誰ともなく理解する。
千年前まで似通った力を感じ取っていたものたちは、その力の質の違いに何となくではあるが気づいてしまう。

かつての力はすべてをつつみこみ、また時として扱いきれないほどの力の奔流であった。
だが、今、感じている力は違う。
優しく、どこまでも優しく包み込む、まるで聖母のごとくの安らぎを感じる力。
当時、生きていたエルフたちで生存しているものは、ごくわずか。
当時まだ幼かったものがかろうじてまだ生存している程度。
力の何たるかを理解せず、力を失ってしまった先祖たち。
その過ちを繰り返すなかれ、そう、エルフの里では常に教わっている。
それこそ小さな子供のころから。
力があるのがあたりまえ、それによって傲慢な態度をとっていたがゆえ、
大いなる意志からついに見放されてしまい、力を失ってしまったのだ、と。
傍観するばかりで何もしようとしなかった先祖たち。
だが、今は違う。
里と、マーテル教は協定を結んでおり、常にエルフの里からもかの地に研修にでかけている。
かつてのように、ヒトと結ばれるエルフを嫌悪したり、追い出すこともしていない。
何しろ自分たちよりもどうみても、世界の恩恵をうけているだろう、とおもわれし種族。
…彼らエルフは、たしかに長寿、ではあるが、不老、ではない。
が、天より降りてきた、フェザー・フォルク、とよばれる種のものは異なる。
彼らは成人後より死するそのときまで、歳をとることが…すなわち、老化することがない。
エルフだけが特別だ、とおもっていた当時のエルフの大人たちの心を打ち砕くには十分すぎた。
そして、今。
あきらかに、これまで感じなかった暖かな力がある。
そして、今の謎の声。
おそらくは、これも世界の、否、大いなる意志の導き、なのだろう。
これまで許されていなかった、世界の力の源、ともいえるマナ。
その力を自分たちは再び感じることが許されたのだ、と。
それは、大いなる意志が生み出す力ではないにしろ、でも、それだけでもかなりの進歩。

「――さあ。おいきなさい。精霊達よ。
  光のレム、闇のシャドウ。風のシルフ、火のイフリート、水のウンディーネ、土のノーム。
  雷のヴォルト、氷のセルシウス。貴方たちの心のおもむくまま。
  あなたたちが過ごしやすい、とおもわしき地へ。
  あなた方は、この世界の自然の具現化そのもの。人々の心の結晶そのもの。
  人々があなた方を信仰するかぎり、銀の大樹があるかぎり、あなたがたもこれよりともに――!」
ウィノナがいうとともに、それぞれの精霊?とおもわしきものたちが、くるくると銀の大樹をまわるように、
幾度も周回し、やがて、それぞれ再び光となりてはじけ飛ぶ。

その光は世界各地にひろがり、世界にいくつもの光の軌跡がソラにと見受けられることとなる。

まるで、夢をみているかのごとく。
御伽話しの、伝説の中にある精霊の誕生。
それが、今、まさに目の前にておこった。
誰の目にみもみえた、あきらかに人とことなりし存在達。
それらがそらにむけてとんでいき、虚空にとけていったのも。


「これより、我らは新しき時代、新しき時を紡ぐことなります。
  新しく生まれた精霊達は、人々の思いが歪まないかぎり、その本質を見失うことはないでしょう」
「だけども。人が世界に害をなさんとするものに成り下がったとするならば。
  精霊達の力に呼応し、今まで以上に自然はヒトに害をなす。それを人間たちよ、心せよ。
  よくもわるくも、自然界に影響をあたえる行動をするのはほかならぬ、ヒト、というものだということを」
キラキラと、光の残滓が降り注ぐ。
すでに、さきほどまであった、蓮の花のようなモノはない。
ふわり、と空中より舞い降りた金の髪の人物が、祭司ウィノナに続けてその横にたちながら言い放つ。
というか、ふわりと降り立つとともに、その体が淡い光につつまれ、
手も触れていないのに、長い髪がいつのまにか三つ編みにされているのはこれいかに。
というか、あの人物はいったい全体、”誰”なのだろうか。
”誰”というか、”何”といったほうが正しいのか。
謎の人物…すなわち、エミルの事を知らないものからしてみれば、そういった疑問がわいてくる。
さきほどの教団長の言葉といい。
「さて。改めて。真の意味でこの世界を見守りし精霊となりし、また見守る要となりし銀の大樹。
  そしてその精霊へ。新たなるマクスウェル、そしてオリジンの地位を引継ぎし、二人よ。ここに」

”エミル”の言葉をうけ、はっと我にともどったかのように、
あらためてミラとミュゼが銀の大樹の前にと足を踏み出し、
そのまま、二人…すなわち、ウィノナとエミルの前にてかるく膝をつき礼をとる恰好を同時に行う。
どうすればいいのか。
打ち合わせとかはない。
でも、”判る”。
それは誓い。
新たなるこの地を守りし精霊となりしものの心構えという誓い。
「私…ミラ・マクスウェルは、先代、マクスウェルの意志と力をひきつぎて、
  これより後も、人々、そして銀の大樹を見守りしことをここに宣言せしものとするものなり!」
「わたくし、ミュゼ・M・オリジンは、これより後、精霊達をたばね、見守り、
  時として人々を導き裁き、銀の大樹の安定と地上の平穏を見守ることを誓うものなり!」
「――今、ここに新たなる統括精霊と、銀の大樹の精霊との間に制約がなされたものを確認するものなり!
  我らは今後、異なる地より汝らの行く末をこの千年と同じように見守ろう。
  これより後は、汝らが新たな精霊達を導き、ヒトと自然、この世界の行く末を担うものとする」
「「承りてございます」」
銀の大樹が、淡く輝き、その輝きは、ミラとミュゼの体、そしてウィノナの体をも包みこむ。

「――新たなる真の意味での見守り手となりし同胞達へそれぞれに祝福の言葉を」
エミルの言葉をうけ、それまでふわふわと空中にそれぞれ浮いていたかつての精霊達。
さきほど生まれた新しき精霊、ではない。
本来、かつてこの地にいた精霊達。
もっとも、その精霊を見知っていものなど今を生きる普通の”ヒト”にはいるはずもないが。
それでも圧倒的ともいえる雰囲気に、空気に、人々は息をのむことしかできない。
言葉を挟むのも、また言葉をはッするのも何だか畏れ多く感じてしまう。
ゆえに、人々は静かにその光景を見守っている。
否、見守るしかできない、といってもよい。
「ミュゼ。ヒトとして生まれ、だがしかし、愚かなるヒトの風習にて命を落とした幼子よ。
  汝は精神体となりて、様々なヒトを、世界をみてきたとおもう。
  その見聞きした事を、感じたことを糧に今後、世界を正しく見守りしことをここに願うものなり」
ミュゼ、と呼ばれし女性へと、八本腕の男性が、高らかに言い放つ。
その言葉をしずかに頭をさげてうけいれているミュゼ、とよばれし女性。
「ミラ、ミュゼ。よく、我らが父であり王でありしかの御方の試練をものりこえた。
  この千年、汝らは人々を導くという事によって、よりその経験を積んだとおもう。
  今後、汝らがヒトと精霊、世界と大樹、ともに共存し生きてゆくことを願うものなり」
「「――お爺様……」」
次に声をかけたは、老人のような、というかどうみてもどこにでもいそうな老人。
その長い髭らしきものが印象深い。
残りの精霊達はといえば、彼らの背後でかるく膝をついている形となり、礼をとっている状態。
もっとも、ノームだけは、ひざをつくというのができないので、ちょこん、
とお座りをしているような形になっているが。
「――では、我からは。新たな歴史を紡ぎ出すこの地をいきるものへ。
  ちょっとした贈り物をするとしよう」
エミルの声はどこまでも深く、それでいて聞いているだけでどこか委縮してしまいそうな。
問答無用でひれ伏してしまいそうな、そんな雰囲気をもっている。
近くにいるもの、もしくはその表情がみれるものならばきづくであろうが、
今のエミルの瞳の色は、紅。
その紅い瞳の中には蝶のような文様がたしかに見てとれる。


贈り物?
その言葉の意味は、この場にいる誰もが理解不能。
ついでに精霊達もきいてなかったがゆえに首をかしげざるを得ない。
「――ノルン」
「はい。お姉様、これは私とお父様より、お姉様への贈り物ですわ」
ふわり、とそれまでいなかったはずの小さな少女の姿が誰の目にもあきらかになる。
否、少女、といえるのだろうか。
その背にある巨大な白鳥の翼のようなものが印象深い。
この地にいる元天使達とよばれるものたちとはその規模がことなり、
とてつもなく、大きく、それでいて神聖さを感じさせる真白き翼をもちし少女。
「――我が名はノルン。惑星デリス・カーラーンにおいて、
  大樹カーラーンの精霊、大いなる意志より、その後継をまかされしものなり。
  今、ここに我らが父たる大いなる意志と、そして大樹の精霊の名のもとに。
  真の意味で新たなる大樹の精霊となりし姉様に敬意と感謝を!
  さあ、新たなる”命の泉”を今ここに!!」
ノルンがそういい、その手にふわり、と杖のようなものを出現させ、
銀の大樹の横の地面を、トン、っとたたく。
刹那、杖があたった空間が淡く輝き、次の瞬間。
一部の地面がまるで鏡面のごとくに輝きをましてゆく。
人々は目を見張らざるをえない。
たしかに地面であったはず、なのに。
一瞬にてそこに、小さいが、ちいさな泉らしきものが出現する。
離れていても、なぜか、脳裏に焼き付くかのごとく、その光景が、嫌でも浮かぶ。
銀の大樹の横に新たにうまれし、ちいさな泉の姿が。
その泉は、銀の大樹とおなじく、金色にと輝き、それはまるで鏡面のごとく。
横にある銀の大樹の姿をその水面にと映し出している。


「…命の…泉?」
これはきいていない。
ゆえに、戸惑いながらも問いかける。
というか、ラタトスクがここにきたのは、精霊達の誕生を見届けるのと、
それらを許可するためだけではなかったのか。
まあ、ラタトスク自身がきたことも今日きいたというか、
さきほど知ったばかりなので、知らないことがミトスとしても多すぎる。
「――これは、わたくしとお父様…すべてなる万物の王よりの送りものですわ。
  命の泉。文字通り、この泉よりは命が新たに誕生いたします。 
  この地の人々の強い願いは銀の大樹に注がれます。
  その想いをうけ、この泉より新たなる命もまた誕生する可能性がうまれることでしょう」
言外に、異なる種族同士の間にも、新たなる命を宿す可能性がある、というのを示唆しているのだが。
そこまで詳しくノルンは語りはしない。
「――人々の、願いが、希望が、想いが。強ければ強いほどに、
  この泉は新たなる可能性、という命を生み出す力となりえます」
「――だが、この泉を悪用しようとしたり、私利私欲で利用しようとしたものは、
  泉のもつ力でもってして、その肉体ごと骸ものこさず完全に消滅するであろう。
  その欲の深さによってはその魂ごと消滅する可能性もあるとしるがいい」
ふわり、とノルンの真横に降り立つエミル。
だが、その背には、半透明な真紅の蝶の羽を思わせる翼らしきものがみてとれる。
真っ白い鳥の翼をもつ少女に、真紅の大きな蝶の羽をもつ少年?。
声はとてもどこか深く、それでいて、無意識のうちにひざまづきたくなってしまいたくなるような。
そんな声。
重々しくもあり、それでいて威厳にもあふれている。

「――大樹カーラーンの分身にして、大いなる意志の代行者、ディセンダー殿の体をかりて、
  今現在、我らに語り掛けているのは大いなる意志であり、我らが万物の王たる御方とお見受けいたします。
  王よ、大いなる神よ。では今後、その泉より新たなる命が、
  新しき種族すら誕生する可能性がある、ということなのでしょうか?」
ミトスとしては、エミルが蝶の翼をわざわざ展開していることにもきにはなる。
だが、おそらくは。
精霊達のこともあっての行動だろう、というのも理解はできる。
すっと、一歩前にとあゆみでて、片手を胸にあてて礼をとりつつ、頭をさげて問いかける。
このあたりの儀礼というか動作はミトスはとても様になっているといってよい。
いくら第三者からその様子がみえないにしても、ミトスはそういったところも手を抜かない。
もっとも、視線のみは、詳しく説明してよね。
とものすごく物語っているのだが。
当然、銀の大樹のほぼ正面にいる形となっている参加者たちはそんなミトスの様子に気づくはずもない。
何しろ、ミトスは彼らからしてみれば、ちょうど背をむける形となりて、
今現在は、大樹の前にいる、ノルン、ミトス、そしてウィノナの目の前に立っている状態。
そんなミトスの台詞に、息をのむ気配がいくつもつたわってくる。
マーテル教の経典の中、伝承にもある、すべてなる父であり母であるという、大いなる神。
まさか、あの少年?の体をかりて、その神が、今ここにいる、というのだろうか。

困惑する参加者たちとは裏腹に、エミルはエミルでおもわずにやり、と口元に笑みをうかべる。
ミトスもよくおもいつく。
どうやら自らの正体はあくまでも、ディセンダー、で押し通すらしい。
まあ、それはそれでかまいはしない。
この姿、すなわち人の姿であるときは、ディセンダーとしてある、というのはいつものことなのだから。
「そうだ。この五千年、この地上には新たなる種ともいえる生命は誕生していない。
  この地表はかつてはすべて、瘴気におおわれ、器あるものが生きるには不可能ともいえる地でもあった。
  ゆえに、我らが干渉し、命あふれる大地にと変貌…というよりは、
  この惑星が瘴気につつまれる前の状態に戻したといってもよい。
  その過程において、彗星よりエルフたちがこの惑星に移住し、そして今のようなお前たち、
  ヒト、としての種の存続がある。
  新たなる精霊が生まれたことにより新しき命の誕生もまた可能となりえた。
  今後、この泉より発生した命が種となり、また核となりて、
  新たなる命…生命に進化、というものを促してゆくこととなるであろう」
進化の過程すら、この五千年、ぴたり、ととまっていたりするこの地表。
魔物たちに関しては、進化、退化があったにしても。
他の生物に関してはそれはない。
「――これより後、あまたなる種族溢れる大地になりえるか。
  それとも、かつてのように愚かにも
  ヒトも、他の命も滅びつくす戦いを起こし種の存続を危うくさせるか。
  今後はよりそれらが顕著になると知れ」
これまで以上に、ひときわ、自分たちの行為によってもたらされる結果が、
人々の目にもわかるようになるだろう。
もっとも、それらは身にしみて一部の地域のものはわかっているだろうが。
科学、という力のみを重要視して、自然を蔑ろにしているものたちもいる。
この場にはどうら、かの大地のものたちはやってくることはなかったようだが。

「肝に銘じます。我らが父であり母でもありし大いなる意志よ。
  我らが地上におりてこうしてここに都を構えしも、女神様方と大樹をお守りするため。
  そこには人々だけでなく地表の命をも守る、という理由も含まれております。
  我らが存続しうるかぎり、かつてのような愚かなる争いは食い止めてみせましょう」
もっとも、それでも暴走する輩はでてきているが。
かの地が何よりの証拠といえる。
いくら大陸の位置がかつてと変わり、というか本来の姿にもどりゆいたとしても、
砂漠化していっているのは、人による愚かさゆえ。

ミトスがいっている場所に心があたりがありすぎる人々は何ともいえない表情をうかべるしかない。
まちがいなく、教皇は、かの地のことをいっている。
軍部のクーデターにより、よりによって王家をおいやり、
そして自滅していったとあるあの大陸を誰ともなく瞬時に理解する。
理解せざるを得ない。
それにしても、命の泉、というものの概要が、いまいちよくわからない。
たしかに、学者たちの間でも”進化論”は論争の種となっている。
一部の学者は生命は進化していまにいたっている、というが。
ではなぜこの五千年あまり。
それがおこっていないのか、と。
科学力によって様々な遺跡を発掘し、そこから情報をよみとっていっている今の人類。
だが、それがすべてではない、と人々もわかっている。
古代とおもわれる地層から古代生物とおもわれし化石、とよばれる品もみつかっている。
だが、それはほんのごくごくわずか。
それどころか一部をのぞき、当時の…過去の痕跡を残す物体…すなわち化石すらみつかっていない始末。
遥かなる過去の生物とおもわれし化石はみつかっているのに、である。
人々は知らない。
それらの生物は、よりもともとのこの惑星の記憶にもとづいてラタトスクが産みだしていたがゆえ、
骨などもマナに還ることなく、大地に記憶、としてのこっていただけ、ということを。

「――かつての戦い。お前たちが今でいう、古代大戦、ともよびし大戦を終結させしものよ。
  かつてお前の行動が、意志が、かの停戦を仮初の平和とはいえ地表にもたらした。
  お前たちの懇願によりて、この地表の命は今を繋いでいるといってもよい。
  そのお前がそういうのであれば、しばしまだ我らはこの世界を見守るとしよう。
  かつてもいったように」
いいつつ、すっと手を横にふるとともに、ふわり、とうきあがる。
それとともに、横にいるノルンもまた、ふわり、とその場にうきあがる。
銀の大樹のちょうどほぼ中央付近。
そこに、ふわり、とエミルとノルン、二人して足場もないのに浮かびつつ、
「だが、直接には我らは干渉はせぬ。よほどのことがない限り。
  お前たちがこの銀の大樹とともにどのような歴史をあゆむのか。
  我らは我らの地にて見守るとしよう」
いいつつ、エミルが片手を挙げる。
それとともに、その場に具現化していた、精霊達…とおもわしき存在たち。
それらもふわり、とうきあがり、
エミルの下に集うようにあつまり、刹那、精霊達が光の粒となりて、一瞬のうちにと掻き消える。

――我らは常にお前たちを見守ると同時、いつでも試している。
  かつてのように、愚かにも世界を破滅に導くようであれば、
  今度こそ、ミトスやマーテルの懇願がありて先延ばしをしていた地上の浄化。
  我が手をくださずとも今度はこの星の”意志”がお前たちに牙をむくとしるがよい。

現れたのも突然なれど、姿が消えるのもまた突然。
皆の脳裏に、心にそのような言葉が直接、響いてくる。
事実は、消えた、のではなく姿をみえなくしただけ、なのだが。
その事実に気づいているのは、ごくごくわずか。
というか、ミトス、マーテル、クラトス、ユアン。
そして、以前、ヴェリウスの心の試練を突破したものたちのみしかその事実に気づいてはいない。


「大いなる意志、そしてそれに連なりし精霊達、代行者ディセンダー様。
  彼らはふたたび、彼らが住まし真なる天界にと戻られました。
  今後は私たちは、私たちの力でこの世界をより正しく導いていかねばなりません。
  人によって、何が正しいのか、何が悪なのかは異なるとおもいます。
  ですが、我ら器ある命あるものは、この大地に、自然に生かされていることを忘れてはなりませぬ。
  悪しきことは、自然を蔑ろにし、自らのみが正しい、と思い込むこと。
  ――地球、と人々がこの惑星に名をつけたように。
  数多とある名もなき命があつまっているからこその、血の球である。
  その意味を皆が皆、忘れないでください」
数多の命があつまっているからこその、惑星の名。
それは、クルシス…否、マーテル教より提案された、この星の新たなる呼び名。
千年前よりその名は、普及し、今では世界のありようを知った人々が自然と使っている名。
今の人々は知っている。
この惑星が宇宙という星空に浮かんでいる一つの惑星なのだ、ということを。
千年という年月は、人々にそこまで技術力を向上させた。
あまりにも自然を破壊するような技術力などは自然と自滅していっているのが現状なれど。
まだ、ヒトは宇宙にまで進出はできていない。
かろうじて、技術力の結晶でもある品を空にむかって打ち上げるのみで。
とある会社が共同し、今では月に調査船…といっても機械のみだが、を送れないか。
という案も今ではもちあがっているという。
実現にはまだまだ時間がかかりそうなれど。
「――さあ。私たちにとっての、新しい歴史を、今、今日この瞬間に。
  初めてゆくとしましょう!」
それは、ウィノナの高らかなる宣言。


世界は、本日、違う意味で生まれ変わる。
これまで感じることのできなくなっていた、銀の大樹が産みだせしマナ。
そして、精霊たち。
世界にマナを感じることができるものがでてきたことにより、
人のもつ第六感なども感化され、影響し突発的に目覚めることもありえるであろう。
この世界にいきるのは、何もヒト、だけではない。
数多の命に、魂が宿っている。
それらの魂を視て、感じることこそが、ヒトが、ヒトとしていきるために必要なのかもしれない。
それらを感じなくなってしまったヒトというものは、生きている、生かされているという感謝の心。
それすらも忘れ去ってしまう可能性が高いゆえに――



「皆、久しぶり」
「ほっほっほっ。しいな殿、久しぶりじゃのぉ」
「というか。爺様!あれ、何なの!?先日いきなり夢でお告げをしてきたとおもったら、あれはっ!!」
何やらわいわい、がやがやと騒がしい。
ウィノナの宣言ののち、ミトスの儀式の閉幕の挨拶があり、儀式は滞りなく終了した。
儀式に参加したかつてのことを詳しくしらないものは、今をもってしても夢心地…
すなわち、ここ聖地がみせた夢か幻なのでは、とおもっている節があるようだが。
「エミル…というか、その子、誰なの?さっき、大樹の精霊、とかいってたようだけど……」
かわらない、とおもう。
部屋の中では、しいなに集っている精霊達の姿もみえる。
・・・どうやら、この部屋の中でのみ、精霊達は姿をあらわしているらしい。
新たにうまれた精霊、ではなく彼らが見知っている精霊達が、ではあるが。
ミラとミュゼはマクスウェルにとつめよっている。
…どうやら先ほどのやりとり。
一応、まえもって、夢でのお告げ、として彼女たちとは連絡をとりあっていたらしい、
そうリフィルはミラの言葉で判断する。
エミルの姿は、かつてリフィル達とともに旅をしていたときとまったくもってかわらない。
金の髪も緑の瞳もそのまま。
違うといえば、かつての服装ではなく、あの旅の中でもみたことのない服装をきている、ということくらいか。
そして、傍らにいる小さな女の子。
「ああ。改めて紹介しますね。この子はノルン。
  僕が彗星に移住することにきめたとき、惑星デリス・カーラーンの新たなる大樹。
  当時の大樹カーラーンより株分けした樹に宿すために生み出した大樹の精霊、ノルンです。
  惑星デリス・カーラーンでは、ノルンの宿りし大樹を、ネオ・カーラーンと呼んでいるそうですけどね」
「私の宿りし大樹は、あの世界、惑星デリス・カーラーンそのものです。
  ゆえに、本体ともいえる精神体では移動は不可能ですので。
  ラタトスク様に頼んでこうして分霊体として移動してきているのですわ。
  もっとも、それもお父様…ラタトスク様がいてこそできる技、なのですけども」
にこやかに、さらり、というような内容ではない。
絶対に。
「お、お父様って……」
声をかけるか否かまよっていたらしき、大人のマルタが何やら言葉をつまらせているのがみてとれる。
そんなマルタに声をかけることもなく、
「ああ。一応皆にはいっておくね。あの泉。
  君達のように後天的に古の先祖の力を取り戻しているものたちや、
  今のフェザー・フォルク達…新たに生まれている子たちは別としても。
  かつてミトスが精霊石によって属にいう”天使化”をしていた人達をも含めて、だけど。
  あれを心から望みつつのべば、元の状態にもどることも可能だから、一応念のため」
『!?』
これまた、さらり、と何やら重要なことをいわれたような。
この場にいるのは、当時の関係者のみ。
といっても、ユアンは今回招いた人々の対応におわれ、クラトスはその護衛。
ミトスは儀式の後の瞑想がのこっているとそれらしきことをいって、その役割から逃れた、らしい。
ゆえに、この場にいるのは、ミトス、エミル、ノルン。
そして、リフィル、ジーニアス、コレット、ロイドにマルタ。
しいな、ゼロス、プレセア、リヒター、この十二人。
かつていた、リーガルはすでに亡くなって久しい。
それでも、ヒトからしては長生き、であったのだろう。
百二歳までいきた、という。
アリシアはプレセアの分身体として誕生はしたものの、あくまでもヒト、として誕生したがゆえ、
アリシアもまた、すでにもうなくなっている。
自らの子供に孫がうまれ、成人したのをみとどけて、リーガルと同じ日にと亡くなった。
千年、という時間はエミルからしてみればほんの一瞬の流れにすぎない。
しかし、限りある命のヒトからしてみればそれはボウダイな時間。
かつての人間の平均寿命が八十年から百年…シルヴァラントでは五十年くらい、とまでいわれていた。
つまりは、最低でも世代交代が十回は起こっている計算となりえる年月。
「ミトス達も。君達は僕が預けているその石の力があるからだけど。
  本来の命の流れに戻りたい場合は、その石をあの泉に還してね?
  それで君達も本来の生命の流れに戻ることができるから。
  今日は特別に僕らはこうしておりてきてるけど。
  ああして宣言した以上、
  精霊として僕らは直接今後、よほどのことがないかぎりこの場所には干渉しないつもりだから」
最も。
「新しく今回生まれた子たちはの限りではないけどね。
  あくまでのあの子たちは、この世界とともに歩むもの、としてうまれたものたち。
  あの子たちが暴走するも、協力するもまたヒト次第」
そんなエミルの台詞に、ふと気になることがあったのか、
「そういえは。エミル。あの時、あらわれた精霊達って。
  何か僕らがしっている精霊達とはだいぶ姿がちがってたよね?」

エミルが精霊。
それはたしかに知っていたつもりではあったが。
あのように直接精霊を従えているのをみれば、今さらながらに実感がともなってしまう。
姿形のほうには別に違和感を感じない。
何しろミトス、という前例がある。
ミトスは時と場合によって、あとミトスの都合によって、
その姿を、大人と子供の姿と使い分けている。
ミトスいわく、まだこの石があるからね、とはいっていたが。
ミトスのもっている石は、かつて精霊ラタトスクがミトス達のためだけ、につくりだしているものらしい。
もっとも、クラトスとユアンは当時すでにエクスフィアをつけており、
それらにラタトスクが手をくわえた、という形になっていたらしいが。
ゆえに、ミトスとマーテルがもつ石のみが正真正銘、特別製であったのだろう。
マーテルは一度死に、器が再生されたことにより、当時の石とはことなる品を今ではもっているらしい。
それは自分たちとて同じこと。

「あと、この石の意味って…いったい、何なの?」
この大陸、今ではユーグリッド大陸、とよばれている、銀の大樹のある大陸。
この大陸にすまうものは、大概、いまだこの石を子供にまで、
すなわち、子孫にまで受け継いでいる。
ただしくは、生まれたときよりその石をその身につけているといってもよい。
だが、他の大陸では、この石をもたないものも増えてきている、という。
特にどこ、とはいわないが。
「それは、君達が心から大樹とともにありますように、という願いの象徴だよ。
  無意識下の願いを持っている場合、常にその石は君達とともにあるよ。
  もっとも、自然の恵みを忘れてしまうものたちは、その石は消えてしまうのだけどね」
あるいみでの目安、ともいってよい。
石をもっているか、もっていないか、で、そのものの産まれ、というか周囲の環境が垣間見える。

「その石が共にあるということ、すなわち石とともに大地の恩恵があるということでもある。
  ゆえに、天変地異とかで命を落とすようなことも、これまでなかったでしょう?」
いわれてみれば、たしかに。
なぜか、地震などがおこるとき、直前に何となく予感などがし、大きな被害は免れている。
もっとも、この大陸というかマーテル教より事前に連絡があり、
事なきをえている、というのもあったのだろうが。
しかし、神託などといった非科学的なことなど信じない。
そういいきった所などはそうはいかない。
これまでにもかなりの被害をこうむっていたりする。
「――今後は、よりそれらの力が目にみえてわかるようになるよ。
  その石は、新しくうまれた精霊達とも通じているからね。
  それこそ、石をもつものならば、新しくうまれた精霊達と契約が交わせるほどに」
『!?』
そんなエミルの台詞に、さらりといわれた台詞に、思わず固まるしかできないジーニアスたち。
気になり、彼らの会話をきいていたものも然り。
というか、あまりにも重要ともいえることなので、自然と耳がその会話をひろってしまった。
といってもよい。
「――君達、ヒトは、その事実にきづけるかな?」
これまでは、エルフの血をつぐものでしか精霊と契約はかわせない。
そうなぜか信じられていた。
石が共にあるかぎり、少なくとも最低限は世界に、自然に害をなすものではない。
と示されたようなもの。
自然を大切にする心があれば、自然と石はその身にとやどるように理がひいてある。
だが、今のところ。
石を失って誕生したものや、自らの行動で石をうしなったものが石を再びよみがえらせた。
そういった現象はほんの一握りしかおこっていない。
そういったものは、その土地において迫害され、ほとんどのものが、
聖都へと亡命してきているのが今のヒトの現状。
「あの新しき精霊達は、でもお父様。人々の思いといったものが形にもなったものなのですよね?」
「うん。だからこそ、かつて僕がこの地にて生み出した精霊達とはまた違う。
  あの子たちは銀の大樹とともにありて、また君達のようなヒトや、この地表の命とともにありしもの。
  君達の心構え次第によっては、僕たち以上にかれらは君達ヒトに牙をむくだろうね」
個々の性格にもよるだろうが。
「彼らはまだ生まれたばかり。彼らの性格はいわばまっさらの状態。
  よりつよい念や想いを抱く君達人の影響をよりうけるといってもいい。
  つまり、あの子たちはきみたち、ヒトのあるいみ鏡でもあるんだよ。
  荒ぶる精霊になるのか、それとも落ちついた精霊になるのか。
  またはことなかれ主義の精霊となりえるのか。すべてはヒトの心構え次第だからね」
争いばかりを繰り返すようなヒトであるならば、新しき精霊もその気質に影響をうけてそう、なるだろう。
自然の姿とは、こうあるべき、こうであってほしい。
そんな形が具現化したのが、今回生まれた精霊達。
ノルンの台詞にさらり、と答えるエミルであるが。
「ある世界などは、完全にヒトと精霊と、共存関係になるような理をひいているところもあるしね」
もっともあまりにも人が愚かであったがゆえ、かの地の精霊達も狂わされたりもした。
精霊達がいなくなれば、かれらヒトもいきてはいかれない、というのに。
力のみをもとめ、欲を抱いた人の手によって。

そんな会話をされても、ピンとこない。
話しが壮大すぎる、というのは何となく理解はできるが。
皆の思いはほぼ同じ。
ゆえに、どうしてもその表情に戸惑いをうかべずにはいられない。

「さてと。僕はもう一つの用事をすまさないとね。――マクスウェル。
  養い子と話しが弾んでいるところわるいけど、こっちの用事をすませてもいいかな?」
唖然としている自らの近くにあつまっている、リフィルやジーニアス、
少し離れてちらちらとこちらの様子をみているっぽいマルタをそのままに、
いまだ、ミラとミュゼと話しているマクスウェルにと話しかける。
「そうですな。というか、本当に、アレをお渡しになるので?」
「アレを利用するかどうかはミラとミュゼ次第でもあるからね。
  アレを利用すれば今生まれた子たちにちょっとした経験をも積ませることもできるし」
「アレをちょっとした、ですませますか」
苦笑気味にマクスウェルが何やらいってくるが。
「手っ取り早いだろ?」
「…まあ、意識を同調、また分けるという勉強にはうってつけでしょうが…」
マクスウェルに続き、オリジンも思うところが少しばかりはあるらしい。
「ミラさん。ミュゼさん。これを」
「「これは……」」
それは、ちいさな一振りの剣。
炎の力と氷の力がそれぞれ感じられる。
ミュゼには氷を、ミラには炎を。
手にしてみればわかる。
剣の形をしているが、それは剣にはあらず。
膨大な力の塊である、ということが。
「名は君達がつけてもいいよ。その二つの力を融合したとき、別なるものになる。
  かつて、僕が許可してミトスに協力するようにいっていたセグンドゥスの形態…エターナルソード。
  それに似通った力をもったものができるよ。
  もっとも、セグンドゥスそのものでもないし、本当に時間を移動できる、というわけでもないけどね。
  一応、時間移動のようなことはできるよ?ただそれが、”本来の時間率”ではないだけで」
「「…時間…移動?」」
「うん。そう。誰にでもあるでしょ?あのときこうすればよかった。こうなればよかった。
  僕にもあるしね。そういうの。だから、ちょっとお試しでつくってみたんだよ」
『…つくった?』
エミルの台詞はこの場にいる誰もが理解不能。
みれば、精霊達はあきれているのか、苦笑をうかべるのみで、説明してくれそうにない。
さらには。
「というか。負担をわざわざ増やす必要もないかとおもわれますが……」
「問題ないよ。あれは大樹の葉の一つ一つを世界にしているだけだもの」
いや、だけって。
この場にいる、精霊達以外の心が皆、同時に一致する。
というか、世界にしてるって何!?
という思いが去来する。


オリジンのつぶやきに対し、らさりとエミルは答えつつ、
「君達の科学でもありえるかも、と提唱されてるでしょ?いわば平行世界だよ。
  ちょっとばかり、この太陽系だけではあるけど、つくってみてるんだ。 
  いわば、箱庭、のようなものだね。
  きちんとそこが発展するようならばそのままこっちに移動させてもいいかな。
  とはおもってるけど…いまだにそういう”世界”にはなってないんだよねぇ。ことごとく」
エミルの言っている意味がまったくもってわからない。
「――加護をもたぬものがそれを利用した場合。
  また、大地とともにいきる証をもたないものは、その肉体ごと移動することになるだろうけど。
  そうだね。”石”をもつものからしてみれば、いわば君達のいう、ゲーム、のようなもの。
  そうおもってくれてもいいよ。まあ、ゲーム、といっても。
  そこにある命は、世界は本物で、実際に入り込むか、もしくは精神体のみで、
  仮初の体をえてそこにいくか、の違いはあるだろうけど。
  僕が干渉しなかったらどうなるのか、どんな世界になりえるのか。
  人の選択によってどうなっていくのか、いろいろと調べてもみたかったしね」
調べてみるだけで、新たな世界を、狭いとはいえ産みだしている。
それらをきいたときには精霊達もあきれもしたが。
でも同時に納得もした。
王が、ミトスに種子を授けなかった世界。
マーテルが殺されなかった世界。
そして…あのとき、王が干渉しなかった世界。
などなど。
精霊達も望むのであれば、それらの世界の”彼ら自身”と意識を共有することが可能。
「――未来、というものはちょっとしたことでもかわってくる。
  僕がかつて、きみたちに接触し、ミトスに再会したようにね」
自身が目覚めなかった場合の世界の顛末。
あの時は意図せずにこうして過去にもどってきてしまったが、
それより後、どのような世界になったかが気になっていたのもある。
ゆえに、かつての世界のようにたどらせている世界もある。
それぞれの世界において、この世界とことなりしは、彗星、ネオ・デリス・カーラーンのありかた。
ただそれのみ。
それでもそこにいきるものたちの行動の結果によっては、
同じような世界でもまったく違う世界にと変化していっている。
例をあげれば、完全に瘴気に覆われた世界から何とかあがこうと、
人々の魂をかきあつめ、人工精霊を創り出した世界など。
星の存続にあたり、その世界ではリセット機能、としてその存在をみとめた。
だが、結果は常にいつも同じ。
その世界においてもヒトは自らの過ちをなかなかみとめようとしようとしない。
「狭い箱庭世界にしてるから、多少、彗星のありかたもかえてはいるけど。
  ちなみに、かつての当時。僕がここに干渉し始めた当時の状態。
  それらを完全に模倣して生み出したから、並行世界といっても差し支えはないよ?」
中にはかつて。
ミトスと出会ったあの当時の記憶、あの時代のすべての命を模倣してつくりあげた世界もある。
そこにすまうものは、知らないであろう。
自分たちが模倣され、生み出された、ということは。
動植物や魔物たち以外は。
その地にいる精霊達もまた、あえてこちら側の精霊達が意識を共有しないかぎり、
そのことは枷をかけ、忘れるように理はひいてある。
ゆえに、それぞれの”葉っぱの中の箱庭世界”をいきるものたちは、
自分たちが閉じられた世界でいきている、ということを知らずに過ごしているといってもよい。
「――それをつかえば、それらの世界にいくことができる。
  もっとも、それをつかってこちら側の世界のものが入り込んだ場合。
  その世界ではありながら、少しばかり歴史の違う世界…すなわち、”新しい世界”がつくられる。
  簡単にいえば、その葉っぱの付け根からもう一つ、同じ世界観をもった世界が誕生するだけ。
  でも、肉体ごと内部にはいったものは、そこから二度とは出てこられない。
  ”元の世界”において、そのものたちをひっぱりあげたり、導く存在がいない限りは、ね」
いわば、それらの世界は”多相互作用世界”、といってもよい。
基礎となっている元の世界が崩壊すれば、すべての世界が崩壊する。
そして、すべての世界に共通しているのは、自らの分霊体でもある自身を核、としていること。
自身のコアを破壊することによって、その世界は崩壊する。
文字通り、葉が枯れ、自身の中にと戻ってくる。
実際、これまでその世界のヒトにあきれ、あえて壊され、世界が崩壊した場所もある。
ミトスとマーテルが生存し、大樹をよみがえらせた世界もある。
だが、それぞれの世界にていえることは、みな共通。
この惑星上において、完全にヒトをマナから切り離した場合、
かならず、ヒトは自らの首をしめ、滅びにむかう、ということ。
マナを感じられず、精霊達の力をより力のあるただの動力源だ、としかみなさない”ヒト”。
そしてその結果、魔界を、かつての地表…瘴気におおわれていたかの地殻の力すら利用しようとし、
自らことごとく墓穴をほっていっている。
共通していえるのは、それらの世界においてもやはり人工精霊となりしマーテルは、
なげくばかりで何もせず、逆に世界を滅亡においやる種をまいている、という点。
人に願われ、乞われれば、先を考えずに知識をあたえ、世界を混乱にと招いている。
やさしさだけでは世界は守れない。
だが、それらの世界におけるマーテル…そしてかつての世界のマーテルもその覚悟がなっていない。
マーテル以外のものが、新たなる大樹…世界樹の精霊となった場合はマーテルよりはまし、といえる。
…もっとも、その場にいきるそのときの人々の行動次第、ではあるが。
一応、それぞれの世界において、”自分自身”は必要最低限の干渉だけ、はしている。
”世界”によっては積極的に干渉する場合もありはするが。
…たとえば、ミトス達とともに…古代大戦、と呼ばれていた時代、
彼らと共に行動していたらミトス達はどうなったのか。
それらを調べるために。
ヒト、に手出しができないように、エグザイアのように空中に大樹を浮かばせて芽吹かせた所もある。
ちいさな葉の中の小さな世界ゆえに、当然、時間率はこちらとは異なっている。
そして、それらの世界は。
あの時、こうすればよかった、こうなればよかった。
そういった、人々の強い想いをうけ、ユグドラシルよりその願いがつたわり、
大樹の葉に影響するように、と簡単な理もひいてある。
すなわち、いくつもある並行世界は、人々の願いの具現化、といってもよい。
そこに、自分が直接、内部にいる”分霊体”たる自分が干渉するか、しないかで”世界”はかわってくる。
最も、そこまでエミルは彼らに詳しく説明するつもりはないが。


「?えっと…よくわかねぇんだけど……」
エミルが何をいっているのかわからない。
時間移動、とかそんな説明がはいっていたような。
ゆえにロイドとしては困惑するしかない。
一方で。
「あいかわらず、ラタトスク様は規格外、というか何というか…
  もはや我らは呆れる以外の何ものでもありませんがのぉ……
  つまるところ、ラタトスク様は、とある方法をもってして、
  この世界、というかこの太陽系。それらをいくつか模倣されて新たに生み出されているのじゃよ。
  今、この地表においては、基本的に人々の強い想い、願いが力となるようになっておる。
  こうなればよかった、ああすればよかった、そういった想いを抱く人もかなりおるじゃろう。
  様々な小さなことから、大きな出来事に関しても。
  そういった強い想いや願い、それらを反映して新たなる世界がうまれるといってもよい。
  大樹カーラーンの葉のごく一部の葉に世界が生まれているのじゃよ」
「でも、まだ数的にはそうはないよ?この千年で生まれたのは、かるく千にも満たないし…
  自滅していった世界のほうがおおいしね。
  やっぱりどの世界でも僕が直接干渉しなかったらなんでか必ず自滅しちゃうんだよね…ヒトって。
  しかも自然を巻き込んで」
いや、千にもみたないって。
さらり、とかわされるマクスウェルとエミルの会話に誰もが理解不能。
いや、一部のものは理解はできる。
だが、心が、理性が理解を拒んでいるといってもよい。
「ロイドにもわかりやすくいうとすれば。だからさっきもいったように、ゲームのようなものだよ。
  そうだね。人生ゲーム、とでもいえばいいのかな?この場合?
  そこに自らが仮初の器をもってして、その世界にはいって”世界”を体験するか。
  はたまた自らの肉体をもったまま、”世界”の中の住人となる覚悟で”移動”するか。
  その差はあるけどね。仮初の肉体の場合は移動するのは、それぞれの精神体のみ。
  ゆえに、精神体を元に体が構築される。望めばその世界の”自分自身”としても。
  ――君達にもあるでしょう?あのとき、こうすればよかった。こうしていればよかった。
  そういった心残りなんかが。それらをもしもそうしていたらこうなったかもしれない。
  そういった結果がみられる、といったらいいのかな?
  二度と帰れないゲームにするのか、自分たちの行動を見つめなおすため、
  もしくは心のよりどころを少しでもつくるために利用するだけ、なのか。
  それは利用しようとするヒトの心構え次第、だけどね」
「我ら精霊は意図すれば、その世界の精霊と意識を共有することはできるが。
  基本的にはそれぞれの世界は閉鎖状態ですからのぉ。
  時折、ヒトでいうところの旅行気分でそれらをしているものもいるにはいますが」
どの精霊、とはマクスウェルは明言しないが、一部の精霊はそういったことを行っている。
「――パラレルワールド…並行世界、ね。
  たしかに、ヒトの行動、その時々の決断と行動次第で未来はかわってくるでしょうね。
  あなたがあの時、この世界で初めて地上にでた、という時も。
  あなたが地上にでてこずに眠ったままであったとするならば。
  そこには違う未来があったのでしょうし」
経験はしていないが、予測はつく。
ミトスはエミルの…否、ラタトスクの干渉もあって、こうして今、ここにいるが。
おそらく、自分たちの言葉はミトスにはとどきはしなかっただろう。
そして、ミトスはおそらく、自分たちが殺してしまっていた可能性が高い。
種子もあのとき、発芽できるかすらもあやしい。
否、ミトスが宇宙に種子をそのまま一度持って逃げる世界というのすらあるかもしれない。
さらにいえば。
「しいなが、過去、ヴォルトとの契約を確率していた世界…
  契約の破棄云々のことをしらなければ、そのままあの時のヴォルトの怒りに触れてしまうでしょう。
  もっとも、契約を果たせたとして、当時のクルシスが黙っている、ともおもえないのだけども」
リフィルがつらつらと自身の予測をうちたてる。
「ああ。ほうっておかないだろうね。自分のことだからわかるけど。
  当時の僕は書物の中にあった分霊体ともいってもいい、もう一人の僕。
  その僕がうけてた数々の瘴気。それらが流れ込んできていたのもあったしね。
  デリスエンブレムを身に着けていればそれらは防げたらしいけど。
  僕はあのとき、加護の力をふりわけて、とある罠にしていたし。
  そうなった場合…天使達に命じて、当時のみずほを滅ぼしていたかもしれない。
  まあ、有用性を考えて、僕らに下るか、否かの判断をさせてから、ね」
自分のことだから、そうなった場合。
すなわち、自分との契約が解かれ、精霊のマナの楔と流れのシステムが狂った場合、
起こすであろう行動は手にとるようにわかる。
ゆえに、ミトスがさらり、とリフィルの予測に同意する。
「…当時のあたしらは、真実というものをしらなかったからね」
もしも、真実をしっていたとするならば、ヴォルトと…すなわち、精霊と契約を。
などとはいいだしはしなかっただろう。
いくら、しいなの身を安全面を高めるため、という名目があったにしても。
それは逆に諸刃の刃でしかなかったのだから。
千年、という時はしいなにとってはとても長きもの。
ゆえに、当時はしらなかった言語などにも手を出している。
知らない事は罪。
それをかの旅の中でさまざまと思い知ったがゆえの行動。
その結果、あのとき。
七歳のあのとき、雷の神殿におもむいたときヴォルトがいっていた台詞。
それがわかるようになった。
…幾度も、当時の夢をみていたからこそ理解ができた、といってもよい。
――我はミトスとの契約にしばられしもの。愚かな人間がまた我を、我らを利用しにきたのか。立ち去れ!
そう、ヴォルトはいっていた。
しかし、その言葉が理解できず、人に…ミトスに裏切られている、
契約を違えられていると知らないまま、しいなは、しいな達はヴォルトの感情を逆なでするように、
自分たちとの契約を、と願った。
ただ、ヴォルトの力のみをもとめて。
そこに明確な目的はなかった。
それがさらにヴォルトの感情を爆発させた。
精霊との契約は誓いをたてる必要がある。
当時のしいなは、自分を育ててくれた里のひとに恩返しをするために力をかりたい。
とあるいみで、何とも自己満足ともいえる、ヒトよりの願いでしかなかった。
それにも拍車をかけた。
それが今のしいなならばよくわかる。
だからこそ、しいなもまたぽつり、とミトスやリフィルの台詞にうなづかずにはいられない。
もしも、ヴォルトの会話が理解できていたとする。
そうすると前の人の契約を破棄してでもできないだろうか、と自分はいっていたかもしれない。
契約の破棄は受け入れられるだろう。
だが、ヴォルトは自分たちとは契約することもなく、そしてまた…
精霊の楔を解き放ったみずほの民を、当時のクルシスがほうっておくとはおもえない。
すなわち…精霊と契約をしよう、としていた時点で当時のみずほはつんでいたといってもよい。
「当時の俺達が研究していた、お前…精霊ラタトスクを探しにいっていたとしても。
  その時期によってはお前の怒りをかっていただろうしな」
もしも、それで万が一、アステルの身に何かがあれば、自分は彼…エミル…否、
ラタトスクに対して攻撃をしかける可能性が高い。
それはもう、果てしなく。
ただ、自分の感情のままに。
下手をしなくても、魔族の力をかりてでも、とおもうかもしれない。
世界を混乱に陥れてでも、アステルの仇、といって
逆恨みなどでラタトスクを恨み、殺そうとするかもしれない。
いや、かもしれない、ではなくて確実にそうするだろう。
当時の自分は、根本的にアステルに対し、完全に依存した形になっていた。
隔離された世界で、アステル、という存在がリヒターにとっての希望になっていたといってもよい。
クラトスと以前、話したことがふとリヒターの脳裏に思い浮かぶ。
かつて、クラトスもまた、ミトスを自身の希望、としてみていた、と。
だからこそ、四千年ものあいだ、ずっとそのままミトスを止めることもなく、
そのまま流されてしまったのだ、と。
今でこそ、魔界という存在は、別なる惑星になっており、この大地の地下には瘴気はない、らしい。
だが、当時は?
ラタトスクに何かがあれば間違いなく、地上は瘴気におおわれてしまっていただろう。
”門”のことをしり、自身が鍵となれば問題ない。
と当時の自分としてはおもったかもしれない。
自身のマナでもって封印すれば平気だ、と。
だが、今だからこそわかるものがある。
世界の理が変更され、ヒトがマナを感じられなくなって利用できなくなってはや千年。
かつては魔科学、というものがまかりとおっていたが、
今では”魔”が抜けて、科学、というものになっている。
いわば、世界を構成している様々な分子や原子。
それらを利用して様々な現象を引きこす、という前提のもとに。
当時もそれはいわれていた。
マクスウェル、という元素を司る精霊の名とともに。
だが、マナから直接生み出す力とはくらべものにはならずに、あまり重要視されていなかった。
それを最近よく思い出すからこそ、リヒターはそういわずにはいられない。
おそらく、さいきん、過去のことをよく思い出す、というのは。
リフィル同様、自分にも死期がせまっているのだろう、とはおもう。
千年は、もう超えた。
あれから千年、かなり激動であったといってもよい。
マナが感じられなくなり、エルフたちもマナを紡げなくなり。
エルフたちいわく、大いなる意志によって、自分たちの態度が見限られた、といっていたが…
つい先刻より、再びマナを感じることができている。
だから、なのだろうか。
かつてのことを今、より深く思い出せるのは。
子供たちも、今ではもう、孫などもいる。
当時、自分が所帯をもって、子供をもうける、などとは夢にもおもっていなかった。
研究所内部が自身の生活のすべてであり、アステルがすべてであった。
アステルを通じ、ヒトにもいい人などがいる、というのを知った。
充実していた、とはおもう。
この一生は。
でも、それでも。
もしも、自分の行動が、決定が、違う未来を産みだせるとすれば、それは…
「でも…救い、なのかもしれないな。どこか違う世界に自分の望んだ世界がある、というのは」
二度とそこにいかれなくても。
違う世界の自分が平和に暮らせている世界。
それがある、というのだけで救われる人が必ずいる。
ぽつり、としたリヒターのつぶやきは、まさにこの場にいる誰もの心情を示しているといってもよい。

「…お父様、お試しでみなさんを一つの場所におくってみたらどうですか?」
「そうだね。まあ、聞くだけじゃあ、わからないとおもうし。
  それらの時間率はこことは異なるから、あっちでいくら過ごしてもこっちでは時間はたたないし。
  そうだね…夢、をみているような状態、なのかな?どうする?やってみる?
  やってみるなら…希望の時間軸、それまでは君達の知る歴史とまったく同じ経過をたどっている。
  そんな世界に送ることができるよ?そこの自分に憑依するようになるか、
  もしくは別に”自分”として存在するかは、君達次第、だけどね?」
ノルンの台詞に、ラタトスクがさらり、という。

それは、あるいみで、甘美的な誘惑――



この世に悪があるとするならば、それは人の心。
いつの時代、どんな世界でも、ヒトはその心のままに。
ヒト、だけではない。
心ありしものは、すくなからずともそれらの要素をもっている。
だが、心、とははからずとも、善、とよばれることをなすこともある。
互いを思いやる心。
それらもまた、心のありかた。
誰かが正しい、とおもってしたことも、他者からすればそれは正しくない、悪だ。
と断言されることもある。
ヒトの世でいうなれば、いい例が戦争、であろう。
平常時はヒトを誰かを、殺めるのは罪だ、といっておきながら、
戦争、となれば逆に大量に殺したものが栄誉あるもの、としてみなされる。
世界に深くかかわりのあるものであるならば、心のままに行動したとしても、
すくなからず、そこに世界が害になるような行動はまずしない。
だが、ヒト、とはそうではない。
光と闇。
どちらの属性をももちあわせている、ヒト、というものは。
世界にとって害にもなれば、有益にもなる可能性を秘めている。
ちいさなきっかけは、やがて大きな動乱ともなりえる。
かつて、自らが一人の人間をあやめ、その場にいたもうひとりのものが、世界を混乱に陥れたように。
だが、ともおもう。
おそらく、あのとき。
彼…アステルを殺さずに、あの場から排除…移動させたとしても。
二人同時に移動させなければ、まちがいなくもう一人の人物…リヒターはその感情のままに、
アステルを害した、とおもいこみ、こちらに刃をむけてきたであろう。
事実、そのような行動をしてみた”世界”もある。
だが、結果は同じ。
異なるのは、自分が惑わしている、とおもいこみ、彼自身がアステルに手をかける、ということ。
どの世界においても、アステルに何かがあれば、リヒターは必ず魔族と接触をもっていた。
そして、世界を混乱に陥れるきっかけをつくっていた。
あえて、センチュリオン達に、こちらの世界の記憶。
すなわち、自身達が分霊でしかない、という記憶をもたせた世界もありはする。
その場合、アクアが彼らを案内してくることはなかったが。
だが、愚かにもマーテルにそそのかされ、ロイドの行動の結果、やはり世界は瘴気にみたされた。
自分が干渉しなければ、必ず、といっていいほどに。
彼らは無知でありすぎた。
ゆえに、であろう。
では、ならば?
記憶をもって…自身のように…このたびのことは意図したことではなかったとはいえ。
もしも、そうすることによって、起こりえる結果は?
今のこの世界はあるいみで平和である、といえる。
もっとも、やはりヒトとは愚かなもので、争いの不穏因子をまき散らしているものはいはすれど。
マーテル教団という組織がそれらをどうにかとどめおいている。
かつてのように世界を巻き込んでの騒乱、とまでには至っていない。


「――で、どうする?試してみる?」
それでよりよい結果がえられるようであるならば。
それぞれの”世界”のものに、夢としてその後の出来事をみせるのも一つの手。
夢はすぐにわすれてしまえど、すくなくとも潜在意識の中にはのこりえる。

しばし、彼らの困惑したような表情をながめつつも、そう、おもう。
ちいさな、本当に小さな箱庭世界だからこそできること。
だが、箱庭にすまうものたちは、そこでいきることがすべてであり、現実。

彼らがどんな選択をするのか。
それにより、次なる種子…新たなる”世界の種”に託す情報もかわってくる。
大いなる実り、とは本来ならば、それぞれの世界の記憶をもたせ、
よりその記憶をもとによりよい世界をはぐくむための理をももたせているのだからして――



                   ――To Be Next In……



pixv投稿日:2018年11月18日某日(Hp編集:2018年5月6日(日)開始

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あとがきもどき:

お・・・おわったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!
よ、ようやくおわった、いやまじで。
いや、これかいてるとき、実はまだ、ユリス戦の戦いの場所だけまだ打ち込みしてないんですよね(マテ)
なので、完全、ではないにしろ、でもようやくラストまでうちこみおわったぁぁ!!
脳内の話が完全に打ち込みしてみたらまさかここまでかかるとは・・・
いや、はじめから脳内展開してたら、そりゃ、一時間程度ではこの話はおわらないのは事実だけど・・
事実だけどっ!!
ちなみに、この仮題のタイトル。(pixivに投稿する際につけたタイトル)
クロス、逆行、という意味あいはラストのラタ様の並行世界云々。
実はそれにもかけていたりもするんですよね。
それらをふまえ、いい題名がおもいつかなかったから、
・・・そのまま、普通にクロス、逆行、でひたすらこの話は投稿(Piさんに)する結果に……
どうでもいいですけど。
ラストの”in”はどの世界にいくかは、それぞれの心の中で、ということです。
たとえば、全員で過去の世界にいくこともあるでしょう。
(その場合は、ミトスは過去のミトスに融合はじかれて別人?として存在します。
  いわばOAV版の二人いるミトス状態ですね)
しいなが、七歳のあのときにいって、ヴォルトとの契約に臨むこともあるでしょう。
その場合は、ミトスとの契約破棄、はうけいれられます。
そのとき、しいながラタトスクのことをいうか否か、でヴォルトの反応もかわってきたり。
そこに、ミトスが逆行してきているのならば、みずほの里はクルシスの粛清ははいりません(マテ)
実際…あのとき、しいなが契約成功させてたら、ぜったいに、クルシスの天の怒り、をかったとおもいます・・
いやまじで(汗)
しいなが、ヴォルトとの契約に臨んだ年齢は七歳のとき。
そして、シンフォニア時間軸ではしいなは十九歳。
つまり、十二年前、ですね。
それを思うと、しいなが契約に挑んだころに、ジーニアスは誕生してるんですよねぇ。
リフィル達がイセリアに在住したのは八年前、だし。
(リフィルが十八のときに移住とは公式発表)
しかし、まちがいなく。
過去(つまりはそのころ)にミトスが逆行
(精神体のみではありますけど&それは全員にいえること。その世界の自分がいれば特別な理由がない限り同
化する)
していたとするならば、・・・リフィルとジーニアスはさくっとクルシスに保護されてるとおもいます。
さらには、理由をつけて、教皇を罰しているような気がひしひしと…
(理由としては、暗躍して神子ゼロスの命をねらってるわ。
  教典にある命は平等、なのにハーフエルフ法を立案させるわ、で天界への反逆意志は十分ありで)
しいなが、過去、ヴォルトの時期に逆行していた場合、完全に歴史はかわってきますね。
そういう意味では。
では、クラトスに世界再生の旅に同行するように、とミトスが命じたあの前後、というか少し前ならば?
…ミトス、逆行して自分の体を得てから、過去の自分をいいくるめて、始めから再生の旅に同行する可能性も…
もしくは、その足で、ラタトスクを起こしにいくという可能性も。
ロイドが母が殺された時間軸。
三つのころに逆行する選択をする場合も。
(その場合は魂のほうが容量が肉体よりおおいので、肉体から抜け出ることは可能)
自らの力で、母、そしてノイシュを助けるためにクヴァル達を退けることも可能なわけで。
つまり、いろいろと話の妄想が(平行世界観)が広がるわけでv
ついでにいえば、ラタ様のこの試み。
それが某世界での”分史世界”の発想につながってゆくわけで・・・
理由とすれば、この世界の”種子”からあの”世界”が芽吹いたからです。あしからず。
つまり、精霊達はその記憶をもっていたからこそ、またそれらをなしえる力も、
”カナンの地の世界樹”にあったからこそ、あのような出来事に。
という。
(逆行していなくても、ラタ様、実は様々な世界、マーテルの盟約によって
  今いる世界に手がだせないのでつくりだしては試してました。
  ついでに普通に種子もマーテルに気づかれないようにつくりだしては新しい”世界”をつくってました)
どちらにしても、大まかな流れ的にはかわらない、ということですね。
宇宙規模(大宇宙規模)からしてみれば。
そうすることによって、マイソロシリーズの、特に2とか。
クラトスの設定。天使とか、ディセンダーの介添え人、とか。
信憑性がますかなぁ、という安易な考え(こらこらこら)
ちなみに、私的には、2にも3にも、クラトスがいるなら、
絶対、ミトス、マーテルもいて、当然、エミル(ラタトスク)もいる!
とおもってます。
…あの設定はみとめない。ラタトスクが消える、なんてぇぇ!(断固として)
消えた、ではなく見守る、で姿をけした、とあのゲームの真実の裏設定だと信じております。
ええ、信じておりますとも。
私の中では、エミル=ラタトスク、なんですよねぇ。
全てなる大いなる意志なんだから、すべてを包み込む慈愛と、すべてを消滅させる無、
両方を当然もってるでしょうから。
もしくは、別々であった場合は、エミルがラタトスクのディセンダー、ですね。
・・・そういう話もメモ帳にかいてますけどね。
ともあれ、ここまでながくなった(自分でもまともにうちこみしてびっくり)
お話しに、数年にわたりお付き合いいただきましてありがとうございました!
・・・・さて、IFさんの続きをいい加減にうちこみしなければ・・・問題児も・・・
しかし、IF・・・IF、というだけあって、
いろいろとあの設定でいろいろと話が脳内でひろがってしまうから困りもの・・
いや、選択一つでほんっと世界はかわるよ、のいい典型的な例ですね。あれ・・(こらこら・・
ともあれ、ここまで永らくのおつきあい、ありがとうございました!!
では、また……
(さて、おわったはいいけど、概要まとめの投稿分もいいかげんにダイジェスト版、
  としてあれもおわらせとかないとなぁ……汗)





~~~おまけ~~~

「うわぁぁっ…って、いってぇっ…あれ?」
ドン、と何かから落ちたような感覚。
自分は、今まで何をしていたっけ?
たしか、皆で、聖地に出向いてて…というか。
「…ここ、どこだ?」
何だか見覚えがある場所のような、そうでないような…
「ロイド。まぁたてめぇは寝ぼけてベットからおちやがったのか?
  まったく」
ギィっと扉がひらき、そこから顔をのぞかしてくるなつかしき顔。
「って…親父!?いつ、もどってきたんだよ!?」
「…は?おめぇ、何いってるんだ?はは~ん、ねぼけてるな?
  いつまでねぼけてやがる。ほら、とっとと起きて、顔をあらって服をきがえてこい。
  おめぇ、昨日も遅刻しただろ?」
あきれたような、それでいて、記憶にある養父よりもかなり若い…
というか、どうして養父であるダイクがここにいるのだろうか?
たしか、今現在は、ダイクはドワーフ仲間たちとともに、モーリア坑道の中に、
ドワーフ達の隠れ里をつくるんだ、といって出向いていたはず、なのだが。
というか、なぜに若返っているのだろう?
「まったく。明後日にはコレットの嬢ちゃんが神託をうけるっていうのに。おめぇときたら……」
「・・・・・・え?親父・・・・神託って…」
「は?何いってやがる。明後日はコレットの嬢ちゃんの誕生日。
  そして再生の神子としての神託をうける日だろうが?何ねぼけてやがるんだ?まったく」
再生の神子って、神託って…
「お、親父!今、アセリア歴何年だ!?」
「は?何だ?そのアセリアって…イセリアの間違いじゃねえのか?」
「アセリアを・・知らない?ユグドラシルは?銀の大樹は?!」
「銀の…?大樹、とは大樹カーラーンのことか?大樹カーラーンは枯れた。これは常識だろう?
  おめぇ…ねぼけてるにしちゃ、おかしいな?熱でもあるのか?ロイド?」
「・・・・・・・・え・・・・・・・、って・・・俺?」
ふと、部屋にある姿見にきづく。
姿見にうつっている自分の姿が見知った姿ではない。
いや、記憶にはある。
これは、この姿は…
「――まさか…本当に……」
本当に…過去?
ありありと、なぜか昨日まで、この体で過ごしていたことが鮮明にと思い出せる。
まるで、そう。
記憶を上書きされたかのごとくに。
「!?み、皆は…っ」
あの場にいた全員が、もしかして同じような過去にきた、というのだろうか。
もしかして、ミトスも。
それとも、それぞれが違う”世界”にいったのだろうか。
でも、もしも、もしもここが、過去、だとするならば。
「――あるべき未来を…かえられる?」
明後日が神託の日だ、と親父はいった。
ならば、もしかしたら。
祭司たちが殺されるという、レネゲードたちの襲撃を防げるかもしれない。
「…親父、俺、きょう、学校休むわ」
「…そうしとけ。リフィル先生には俺から連絡しといてやる。おめえ、めずらしく顔色もわるいしな」
かつて、できなかったこと。
そして、さっきまでできていたこと。
もし、本当に、未来の自分の心…魂が、過去の自分、この世界の自分と融合、というか、
憑依?とかいうのをしている状態だ、というのなら。
手をみれば、消えてしまった母の石がそこにある。
本来、生まれたときからもっていたという自分の力。
母の力で抑え込まれていたというその力。
たしかに、意識を自身の中にむけてみれば、誰かが力を抑え込んでいるような、そんな感覚がする。
「じゃあ、俺は連絡にいってくるからな。おめぇは休んどけ、いいな?」
「ああ。…親父、ごめん」
「しかし、変なもんでもくったのか?それとも腹をだしてねて体調崩したとか?」
「ど、どういう意味だよっ!!」
からからとわらいつつも、部屋からでてゆくダイクの姿。
そんな養父の姿を見送りつつ、
「…まずは、できることを確認しないと、な」
もしも、翼が、母との会話ができて、再びつかえるようになるのなら。
…翼をもちいて、レネゲードの本拠地であるあの基地までいき、
ユアンと話してみるのも一つの手、であろう。
ユアンはこのとき、マーテルを助けるため…あのときはマーテルを消滅させるため、ではあったが。
でも、心からはマーテルを助けたいとおもっていたはず。
ならば。
「…話のもっていきようによっては、あいつを仲間にひきこめるはず」
ラタトスクの存在をにおわせてみるのもいいかもしれない。
そういえば。
「…エミルのやつも、ここに意識をむけてるんだろうか??」
そうであれば話ははやいが、そうでなければ…厄介かもしれない。
まちがいなく、そうでない場合でも、彼は気づくであろう。
自分たちの魂というものが、未来の・・すなわち別の次元空間からきている、ということに。
「あとは、ミトスがどうなってるか、だよなぁ……」
ミトスもきていれば話は早い。
でも、ともおもう。
エミルがいない状態で、ミトスに自分たちの思いが伝わるか。
あの時のように、何もしらない状態でこの時代のミトスに接触できるか、といえば答えは…否。
まちがいなく、自分たちの知っているミトスと重ねてみてしまうだろう。
ミトスも同じくもどってきているのならばまったくもって問題ないのだが。
「まずは、マーブルさんの悲劇とかをふせがないとな」
あと、先生が回復力をもってるままであることを望むけど。
そうであれば、クララ夫人を助けて、ドア総督もその場で助けることができるはず。
キリア、と名乗っていた少女の動向にさえ気を付けていればそれは可能のはず、である。
問題は。
「…コレット…だよな…でも、あいつのことだから……」
自分が、神託をうけて、旅にでないと絶対に皆に迷惑がかかる。
そういって、かつての旅を再びしようとするだろう。
エミルがいない状態での旅。
そこに何がまっているのか、なんてわかりは…しない。

ロイドは知らない。
まさに、その瞬間。
ロイドが目覚めたその瞬間と同時刻。
あの場所にいたすべてなる存在…精霊をも含みしものが、
すべての意識を共有している、ということを。
すなわち…この地の精霊たちも、あの場の精霊達の記憶を保有してしまった、ということを。
それにより、精霊達が決定する未来は、彼らにとって、どういう結果をもたらすのか。
まだ、それは誰にもわからない――




ちなみに、このおまけの設定。
あの場にいた全員。精霊達を含む。
すなわち、とうぜんラタさまもですが。ノルンもですが…移動(記憶&魂)してきていたりします。
この世界のノルンは彗星デリス・カーラーンにいます。
でも、ミトスのこともあって、休眠状態になってました。
(ミトスが邪魔されてはいけないからとねむらせてる)
器、すなわち肉体は魂にひっぱられます。
魂が肉体にひっぱられてしまうように。
つまり…心の試練を突破しているメンバーからしてみれば、


肉体は魂に引っ張られていますのです。
ゆえに、当然、未来における力は利用可能、です。
ミトスは、融合しようとしますが、はじかれます。
理由としては、この時代のミトスはかなり魔族の影響がつよく、
よりマナがこく、しかも加護もつよくなってるミトスをはじいた形ですね。
なので、ミトスが実質、二人いる形になってたり。
でも、未来における自分といえど、自分は自分。
ゆえに、誰よりも信頼できる相手ではあります。この時代のミトスにとって。
・・・何しろ、未来のミトスいわく、姉様たちとくらしてる、ときっぱりいってますしね(笑
嘘はいってませんよ、ミトスは、嘘はw
クラトスに神子の監視をまかせた、ときいて。
あのクラトスだけにまかせて平気?なら僕もいっしょにみはってようか?
と提案して受け入れられるというv
(つまり、本来ならばクラトスの見張りはプロネーマにまかされるところが、それがなくなります)
クラトス、大混乱vそもそも、ミトスが二人になった、というのでも。
かつての自分の意志が邪魔になったからわけた、というのを鵜呑みにしてたり。
(未来のミトスが過去の自分にそう説明したほうが都合よくない?といってうけいれられ)
クラトスと合流するよりも先にラタトスクのところにいって、彼を迎えにいってたりw(マテ
つまり、ミトスが移動している時点で、もはやもう本来の歴史?とはかなりかわったものになりえます。
ラタ様はエミルの姿でついてくるのか、もしくは動物?の姿でついてくるのか。
どちらのパターンもありますが、それは皆さまのお好きなほうの想像、というとでv
エミル合流パターンの場合、振り回されるのは周囲。
すなわち、クラトスとユアン達です(マテ)
動物としての合流ですと、クラトス達はラタ様がそこにいるのを知らない状態です。
で、関係者たちの前でだけ、ラタ様は話す、みたいな感じで。
センチュリオン?ラタ様の意識が融合?された時点で目覚めの波動むかえてますよ?
ついでにセンチュリオン達にもラタ様、今回は記憶を融合させてみたり。
あくまでも記憶のみ、なので力云々は満ちたりとかはないんですけどね。
ラタ様達に関しては(あまりにも小さな箱庭世界なので力を上乗せしたら世界そのものが消滅する可能性が高い
ので)
そんな感じの並行世界というか、逆行世界~
ちなみに、この世界の彗星の立ち位置。
…太陽系を周回している彗星、という形にラタ様はしています。
いや、基本的に太陽系、しかこの箱庭世界はつくってない場所なので。
星空?いわば、映像スクリーンにうつしだされている、いわば記憶のようなものですよ。
つまり、星がみえていても実際にはないわけで・・(太陽系内以外には)
いまだ、箱庭をつくりはじめて千年にもみたないので、小銀河規模、とか大銀河規模、とか。
つまりは、小宇宙、大宇宙規模のものはつくってません。
いや、というか、そこまでいくともはや箱庭、でなくて完全なる宇宙空間世界、といってもいいんですけどね。
この逆行世界の場合。
ラタ様やミトスがかかわる、かかわらざるを得ない場合でも、
マナを相互切り離しおわり、大樹を再生させなかった場合。
ラタ様の手によって、惑星が二つにわかれます。
つまり、位相軸でわかれていた空間のまま、そのままそっくり新たなる惑星となってしまうわけですね。
エターニアの世界のように。

~~

※ボツシーン※


「――これは、命の泉。かつて我がこの地にひきし理。
  異種族同士での子は決してみとめられない、その理は健在。
  だが、種がことなれど、通じ合うものもいるであろう。同じ種を望むものもいるであろう。
  これは、そのための命の泉。
  これより後、この地にいきるもの、生涯において、一度、のみ。
  その種族を根底からかえられるものとするものなり」
『!?』
種族がかえられる。
そのあまりにも非現実的な台詞にその場にいる誰もが息をのむ。
理解がおよばない。
というか、あの人物は、我がひきしコトワリ、とか意味のわからないことをいわなかったか?
正体を知らないものからしてみれば、困惑せざるをえない。
「だが、そこに少しでも欲や邪念があれば、この泉の力はそのものの命をも奪うこととなるであろう。
  そして…生に生きることをあいたものは、心より望むのであれば、
  この泉の力でもってして、次なる生におもむくことができるようになる」
『!!?』
次に驚愕したのは、エルフ、そしてこの地にいる元天使達といったものたち。
つまり、それが意味すること、それ、すなわち……
「この泉は銀の大樹が現存するかぎり、決して失われることはないであろう。
  すべては、この地にいきる様々な生命体による心構え次第」
現に、そのような品を失いたくないならば、愚かなことをするな。
とエミル…否、ラタトスクはいっているに過ぎない。
「大いなる意志の代行者、ディセンダー殿の体を借りて、話されている、我らが父よ。
  大いなる意志であり神よ。それはいかなる意味なのでしょうか?」
ミトスもこれは聞いていない。
おもわず、ラタトスク、どういうこと!?
と内心おもいながらも、とりあえずここには他のものの眼もかなりある。
ゆえに、今のラタトスクの言い回しを説明するためにも、
あえてそのような言い回しをし、エミルにと問いかけるミトスの姿。
すっと、ひざをその場について、礼をとりつついうその様は、
あきらかに目の前の人物…ディセンダー、と呼びし人物に敬意をはらっている。
と誰の目にもあきらか。
「この泉はこの惑星の記憶。そしてまた、人々の思いの結晶でもある。
  ゆえに、真実心より当事者が望むかぎり、種の変更、というものを認めたにすぎぬ。
  これまでの歴史を垣間見ても、種が異なるがゆえ、争いをしたものも多々といた。
  汝ら、我がフェザー・フォルクと千年前、新たな種、として確定したものたちもまた、
  この泉の力をもちいれば、ヒトにも、エルフにも、”何にでも”一度のみは種族の変更が可能。
  この世界は、種が異なるもの同士の子供は基本的にはうまれはしない。
  もっとも、後天的に先祖返りをしているものたちは、その特性も引き継いでいたことから、
  子をなすことも可能であったが。
  だが、汝らもわかっていよう。かつて我が汝ら人に伝えたように。
  ヒトもエルフも元は同じ、デリス・カーラーンよりの移住の民。
  ゆえに、子をなすことも可能なれど、だが、フェザー・フォルクの民は違う。
  同じ、種族同士ならば、子孫を残すことも可能であろう。
  しかし、汝ら人は、種が異なると判断したものとの間に生まれた子を差別しすぎた。
  それゆえにかつて、この地上において戦乱がおこり、大樹カーラーンを枯らす結果となった。
  だからこその、処置。だが、この泉は、汝らにとって希望であり、また毒にもなりえるもの。
  この泉を私利私欲等で利用しようとした場合、泉はそのものを破滅に導くであろう。
  いわば、この泉は汝らへの救済処置のようなもの。
  すべてが同じ種族になるのもよし、異なる種族同士で協力しあうのもよし。
  この泉にはこの惑星上に発生したすべてなる種族への変更が可能、となっている。
  もっとも、精霊達に関してはそれには含まれぬ。あのものたちは我がうみだせしもの。
  すなわち…精霊達以外の種族変更が可能、というわけだ」
それは、かつてミトスが行おうとしていた、すべてが同じ種族になれば平和になるかもしれない。
いわば、これは人類への新たなる試練ともいえる。
本当はこの手段はとろうとはおもわなかった。
だが、千年という年月の間。
種族がことなりつつも心をかよわし、そして子ができないゆえに絶望するものも多々といた。
異なる種族同士であゆみよっても、生きる時間が異なるゆえに嘆くものも。
「では、もしも、ではありますが。すべての地上の民が。
  我らフェザー・フォルクにかわりたい、と願えば、それも可能なのでしょうか?」
「可能、ではあるが。そこに邪念や、自己欲、といったもの…
  すなわち、他者に迷惑をかけるような欲が少しでもあった場合。
  泉の水を手にせしものは、先ほどもいったように、破滅しかない。
  すなわち、骸すらのこらぬ、絶対的な死が訪れるものと知れ」
「――我ら、人にはこの奇跡の泉はまだ、早いとおもわれます。
  大いなる神よ。その慈悲深き御心に感謝はいたします。
  ですが、この力は、今の世には、人には重すぎます」
しばし、目をとじ、それでも決意をこめて、ミトスがしっかりとこちらにむかっていってくる。
「この力は間違いなく、心よわきヒトが争いをもとめる結果となりえるでしょう。
  異なる命の時間率に関しては、それも踏まえ、人々は向き合うべきなのです。
  そこに亀裂も生じましょう。ですが、私たちは人の心というものを信じたいのです。
  ですが…子を望みし、異種族同士の結びつき、その願いをはたしてくださろう。
  その心はありがたいものです。それのみどうにかなりえませんでしょうか?」
ミトスからしてみれば、この申し出はとても魅力的。
だが、長い目でみなくても、まちがいなくこの力をもとめ人は争いを初めてしまう。
種が自由にかえられる。
たとえ、一生に一度とはいえ。
それは何と甘美なる誘惑、なのだろうか。

もっとも、ラタトスクとしてもおそらく、ミトスが完全に断るだろう。
というのは想定内。
ゆえに、わざわざ今のように説明したまで。
「――では、この泉に、大樹に心より[[rb:番 > つがい]]となりしものたちが願いしとき。
  その奇跡がおこりえる力となそう。もっとも、両親のうちのどちらか。
  そのどちらかの子を望むか、はその願いをする両親次第ではあるが。
  子を授けることを許可するとしよう。
  そして、種の変更は、ヒトの世にはまだ早い、というのであれば。
  この泉より新たなる種が、人々の願いが世界にあふれたとき、生まれいでるようにしよう」
実際は、種の変更も可能なれど。
それに人が気づくかどうかは、人々の心次第。
「だが、この泉の力を悪用しようとするものがいれば、それこそ泉の力はそのものを破滅に導く。
  それだけはかわらぬ。ミトスよ。
  かつて、この地上においての大戦を食い止めたミトス・ユグドラシルよ。それでよいか?」
「――感謝いたします」

ざわり。
では、やはり。
マーテル教の教皇は、勇者ミトスの生まれ変わりという、あの言葉は。
ざわめきが、この場に招待されているものたちから大きくなる。
ちなみに、ミトスの視線は、なんでいきなりそんなこというの!?
というようなおもいっきり非難したような視線がエミルにむけられているが。
そんなミトスの視線をさらり、と無視しているエミルであったりする。


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