「あれ?上様。それに姫様。あけましておめでとうございます」
というか、そもそもこの二人はこのご時期、とてもいそがしいのではなかろうか?
町中で出会い、思わずそんなことをおもいつつも声をかける。
周囲の人々は正月の浮かれ気分によい、そんな彼の声にはきづいてすらいない。
「辰五郎。あけましておめでとう。それと城下でのその呼び方はよせ」
彼とは葛野藩の当主であった時代、とにかく山の中をかけまわっていたときにと知り合った。
そして今では、江戸四十八組の町火消しの頭を別のものにとゆずり、町内頭、となっているこの彼―辰五郎。
「あはは。すいません。しかしお二人ともいそがしいのではないのですか?」
どちらの立場にしても忙しいことにはかわりのないはず。
「美智絵に連れ出されられたからな」
いって思わずため息。
気付けばいつのまにか服装すらをも変えられていたのはいつものこと。
「それに。今年はなぜか病欠するものが例年以上にいてな」
それゆえに謁見の数が例年に比べると少ないのも事実。
それらがほとんどよくない噂をみみにするものばかりなのでいちおう、お庭番に銘じてしらべさせてはいる現状。
「まあ、お二人とも。すこしの気分転換も大事ですよ。
お二人の立場からしても民の町民の暮らしをしるのもお仕事ですしね」
まあ、片方からすればそんなものはどうでもなるものなのかもしれないが、苦笑しながらも話しかける辰五郎。
「しかし。美智絵様。あまりうろうろしてたらからまれませんか?」
何しろ彼女はかなり目をひく美女の部類にはいる。
整った顔立ちに端正な容姿。
しかもどこをどうみてもどこかのお嬢様かお姫様、といったように見受けられる。
二人が並んでいて実の兄妹である、というのは知らない人はすぐにはきづかない。
どちらかといえば美男美女のお似合いの恋人同士、にみられるのがほとんど。
「大丈夫よ。私の姿は特定のひとにしか視えないようにしてるし。
それに、私たちのことも特定のひとしか気づかないようにしてるから♪」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
さらっといわれたその言葉に思わず無言。
「…お願いですから。それでも人ごみの中でいきなり空に浮かんだりはしないでくださいね…」
あれはいく度みても心臓にわるい。
はてしなく。
当人に悪気がなくやっているのだから余計にタチがわるいことこの上ない。
「そ、そういえば。なんかこの正月は何かあるんでしょうかね?
ちまたでもあまり評判のよくない輩がことごとく床にふせってるらしいですよ?」
しかも、みんな黒い噂のあるものばかり。
とりあえず話題をかえようと最近の町の話題をとりあげる。
「町でも、か?…まさか、美智絵。おまえ、何かしたのか?」
さすがに全国からやってくるはずの謁見者たちの中にもそういった輩の病欠がめだつ。
というのに町でも噂になるほどの現象。
偶然、というにしてはできすぎている。
となれば、何かしらを『何か』が仕向けた可能性は大。
「あら?ただ。お灸をすえてるだけよ?兄様。大丈夫♪きちんと人の道にめざめれば完治するから。
どうも太平の世がつづいているからって他人を思いやる心を無くした人がここ最近は増えてたから」
にこっとほほ笑まれ、さらっと何でもないように肯定され、再びため息をつくしかない。
この妹は自分の知らないところでいったい何をやっているのか。
突拍子もないことをさらっとやってしまうのは今も昔もかわらない。
「…それって、あるいみ天罰、といえるんですかね……」
辰五郎もまた、彼女の『能力』を知っているがゆえに思わず遠い目をしながらぽつり、とつぶやく。
確かにある意味、天罰、といえば天罰…なのかもしれない。
が、それに巻き込まれる周囲の人々はたまったものではないであろう。
そんなことをおもいつつ、互いに顔を見合わせ、再びため息をつく二人の男性をみつつ、
「変な兄様達」
きょとん、としながらそんな二人をながめる美智絵の姿。
そんな彼らの心情とは関係なく、周囲の新年のお祭りの声はにぎわいをまし、
今年もまた江戸の城下も安泰のようである……
~終わり♪~
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あとがきもどき:
短編なのでちょっとした小話を二つほどv
まあ、この短編で暴れん坊将軍世界を知っている人達はなんとなくつかめるかな?(こらこら
ちなみに、この短編でやってる美智絵のあるいみお灸据えはけっこうきびしいものにはいりますv
何しろ熱はたかく、幻覚ともない体はうごきません。(それでも美智絵いわく優しいお灸
自分の行動の過ちに気付いて悔い改めないかぎり、ひたすらにそれがつづきます。
…ちなみに、普通なら高熱つづいたら死んだりするのが常ですが、このお灸(?)死ぬことすらも許されません。
…迷惑なのは周りのもの、なのかもしれません(苦笑
ではでは、またいつか~♪
2009年12月31日(木)正月用短編打ち込み
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