エル様漫遊記 ~地底王国の脅威編~


やたらと見た目ファンシーな建物は、人里離れた山の中。
「…何かこっちのほうから、あの人の気配がするぞ?」
という、ガウリイの言葉をうけ。
ナーガを探しがてら、セイルーンに向かう途中のあたしたち。
少し前、レイナード王国において、ちょっとした事件を解決し。
アメリアを送りがてらにセイルーンに向かっているあたしたち。
ミルガズィアとメフィはしばらく、ルナ達と共に、レイナード王国に事後調査。
とかいって残っていたりするけど、それはそれ。
たまーに、レアな珍味な食べ物を求めて山の奥まで入り込む存在がいたりもするが。
あたしたちもまあ、ついでだから、というのでそんな食べ物を探しつつ。
ガウリイがいった方向にと進んでいたりする今日この頃。
山に分け入り、道をはずれ。
谷があったら、そのまま空を飛んで飛び越えて、奥に進むことしばし。
獣道すら外れて藪を掻き分けたその先に、それらは突如として目の前にと姿をあらわす。
店全体がパステル・カラーにと彩られ。
掲げたちょっとした大きさの看板には、あたしやゼロスには読めるけど。
それ以外のアメリアやゼルには読めない、ちょっとした丸文字。
いうなれば、ドワーフたちが使っている文字だったりするんだけど。
ゼルはそれをみて、少し以前レゾと多少はその辺りのことを調べたことがあるがゆえに。
「うん?」
などといって、首をかしげていたりするけど。
「?山里にでも出たんでしょうか?」
いって、アメリアがきょろきょろと、辺りを見渡すが。
「そんな気配はないぞ。」
即座に突っ込みをいれているゼル。
店のほかには、当然のことながら、集落はおろか、掘っ立て小屋の一つも見当たらない。
目の前の建物は、一応ちゃんと手入れされていて、廃屋の類でないことは、アメリア達の目にもあきらか。
「?何かのお店…みたいですねぇ。」
それをみて、のんびりと、看板に書かれている文字をみて、にこやかに言っているゼロス。
「?こんな客もきそうもない場所で…店?」
「何の商売をやってるんでしょうか?」
そんなことを言いつつも、互いに顔を見合わせて首をひねっているアメリアとゼルの二人だし。
「お。あの中から、あの姉ちゃんの気配してるぞ?」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
さらり、というガウリイの言葉に、しばし、アメリア達は沈黙。
ほんっと。
ガウリイ、だんだんとその辺りの勘が鋭くなってきてるので楽しいわv
「…と、とりあえず、中にはいってみましょう。」
「だな。何をやっている店なのかも気になるところだしな。」
そんなことを言いつつも。
店のほうにと歩いてゆくアメリア達。
そして。
そのまま、店の扉に手をかけると。
かろんかろんっ!
涼しいドアベルの音を立て、扉は何の抵抗もなく開いてゆく。
そこで、あたしたちを出迎えたのは。
「いやっしゃいませぇ♡」
はつらつ挨拶明るい笑顔。
エプロンドレスに身を包み、長い黒髪をピンクのカチューシャでまとめている一人の人物。
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
その姿をみて、思わず沈黙しているゼルとゼロス。
そして。
「あああ!?姉さん!?」
「あら?アメリアじゃない。お~ほっほっほっ!とりあえず、あなたたち。見たからには逃がさないわよ!」
驚きの声を上げるアメリアに。
高笑いをあげながら、そんなことを言っているのは、いうまでもなく。
アメリアの姉でもある、自称、白蛇のナーガ。
「いや。というか、本当にいるし……」
その姿をみて、頭を抱えているゼルに。
「な?いったとおりだろ?」
いって、得意満面な顔をしているガウリイ。
「…それはそうと。何をなさっているのですか?」
対象的に、のんびりと、なぜか、エプロンドレスに身を包んでいるナーガにと問いかけているゼロスの姿。
そんなゼロスの言葉をうけ。
「お~ほっほっほっ!あなたたち、よくきたわね!とりあえず、こっちにいらっしゃいな。」
いって、アメリアに手招きしているけど。
「というか、いつものあの格好でなくてまともな格好だな。いつもまともな格好してたら問題ないのに……」
至極さもありなん、というようなつぶやきをもらしているゼルの姿もあったりするけど。
「あら?私がこんな格好してたらおかしいかしら?」
しれっと言い放つナーガに。
「姉さん。こんなところで一体何をしてるんですか?」
「というか、この格好をみたら、このグレイシアさんのことを普通の人だ、と人々が勘違いしますねぇ。これはv」
アメリアの言葉と同時に。
なごやかに、さらり、と的確なことを言っているゼロス。
「ちょっと。どういう意味かしら?」
そんなゼロスに問いかけるナーガに。
「いえ。グレイシアさんは、グレイシアさんらしく、のほうがいいとおもいまして。
  蛇だって毒をもっているモノはカラフルな模様をもってますし♡」
さらり。
と言い放ち、にこやかに笑いつつ、ナーガを交わしているゼロス。
「何か腹立つわねぇ。そのたとえ。」
ゼロスの言葉に少し眉をひそめるナーガに。
「で?何をやってるんだ?こんなところで?」
じと目でそんなナーガに問いかけているゼル。
その間にも、ざっと店内を見渡していたりするけど。
店内は、窓を閉め切っているせいで、太陽の光こそ入ってこないものの、
あちこちにと組み込まれている光石のおかげで十分に明るい。
外装と同じファンシーな内部に、ファンシーな家具。
陳列してある商品がヌイグルミとかなら雰囲気にぴったりなのであるが、
レモンイエローのテーブルの上には十字に組んだ大ぶりの斧。
ピンクの棚には小ぶりな鎧やヘルメット。
どれもこれもが見た目には、古び、朽ちかけ、サビと土と草の色にと染まっている。
そのようにみえなくもないが。
実際は、これらすべてはデザインの一部。
「……何なんですか?この店?」
アメリアも、そのアンバランスな内装と商品に気づいて何やら首をかしげているけど。
おいてあるのは、サイズもまばらな、まちまちな見た目古びた装備の数々。
「ふっ。アメリア。それにあなたたちも。みてわからないの?」
髪をふぁさっとかきあげつつ、言ってくるナーガの言葉に。
「……死体からあさった装備の専門店とか?」
お茶目なことを言っているゼル。
「ないわよ!そんな店!ここは――」
ナーガが言葉を切った理由はただ一つ。
誰もが感じる、近づいてくる気配と足音。
それをうけ、ナーガが動き。
「とりあえず、あなたたち。その中にはいってて。」
いって、ずるずるとアメリアをひこずって、カウンターの裏にとある戸棚にアメリアを押し込む。
首をかしげつつも、言われるままに、何が何だかわからないままに。
とりあえず、とまどうゼル・ガウリイ・ゼロスの三人。
「とりあえず、あたしたちも隠れましょ♡」
あたしの言葉をうけ。
とりあえず、あたしたちもまた、その戸棚の中にと身を潜める。
あたしたちが中に隠れたのを見届け。
ナーガはカウンターの中でくるり、ときびすを返す。
そして、その視線を店の玄関にと向けたその直後。
かららん。
店のドアベルが音を立てて開いてゆく。
「いやっしゃいませぇ~♪」
店の中に、ナーガのやたらと陽気な挨拶の声が響き渡る。
棚の戸には通気のために細いスリットがいくつもついており。
その隙間から店の中を見ているアメリア達。
扉をあけて入ってきたのは、その背に袋を背負ったオークの姿。
一般的に、オークの名前を人間達などはまず知らないものはいない。
といえるほどのポビュラーな種族。
コブリンやコボルト、と並び証されているヒト型の一種である程度の知能や文化をもっているものの。
人間達の間では害獣扱いされていたりする。
当然、ベテラン騎士や魔道士にとっては、そういった存在が襲ってきても、それらは雑魚でしかありえないけど。
オークはしばし、店内をうろうろしてから。
そして、ナタを一振り手にとって、ナーガに向かって鳴き声をあげる。
正確には、彼らの言葉を発しているんだけど、言葉がわからないものには鳴き声、としか聞こえない。
「ヴっ。グゴッゴッグブブ。」
プレゼントとしてこれをください。おいくらでしょうか?
などといっているんだけど。
アメリアやゼルは言葉がわからず、ただただ首をかしげているのみ。
そんなオーガに向かって。
「ほ~ほっほっほっ。」
『そのナタはあなたには似合わないんじゃないかしら?というかブレゼントにはむいてないわね。』
「グゴッヴ?」
『似合わない?というかむいてない?』
「ほ~ほっほっほっ。」
『そう。あなたのイメージではないわ。プレゼントにするなら、もう少しね。』
「ウッグ。ゴックブク。」
『なるほど。ならば他のものに。』
そんな会話をしつつ、というか、ナーガは笑い声に意味合いをこめて、ただただ笑っているだけなんだけど。
オーガはナタを元に戻すと、今度は大降りの短剣を手にとり。
「ゴッブブグゥ?」
『ならこれはどうでしょう?』
「ほ~ほっほっほっ。」
『あら。ステキじゃない。さっきのナタより格段にいいわ。』
「ヴ。」
『じゃあ。これをラッビンクおねがいします。』
ナーガの笑い声にオークは満足そうに一つうなづくと、その短剣をもって、カウンターにと持ってくる。
・・・・・・・・・・・・・通じてるし・・・・・
そんなことを思いつつ、それをみて思わず頭を抱えているゼル。
お~。
笑い声だけで会話が通じてるなぁ。
などと思っているガウリイ。
さすが姉さんです!
一人、目をキラキラさせているアメリア。
ま、ナーガだしね。
あたしたちが静かに棚の中から見守っているそんな中。
ナーガは短剣を白いレースで包んで、ピンクのリボンでラッピング。
オークが背中の袋をカウンターにと置き。
袋の口から動物の毛皮を取り出し、カウンターにとならべてゆく。
それが、彼らにとっての代金がわり。
「ゴッゴックブブグ。」
『いいかいものができた。ラッビングもかわいくしてもらえたし。』
「ありがとうございました~♪」
そんな会話をしつつ、『買い物』を無事に済ませたオークは、そのまま、ドアベルを鳴らし。
何事もなかったかのようにと再び店を出てゆく姿が見受けられていたりする。
客が帰ったところで、ナーガはくるり、ときびすを返し、あたしたちが隠れていた棚の扉をあけると。
「ということよ。」
そんなナーガの言葉に。
「まさか……ここって……」
思わず何やらつぶやいているゼロスに。
「モンスター用の武防具店か!?」
驚愕の声を上げているゼルの姿。

なぜ一般の人々が疑問に思わないのかが、ある意味面白い事の一つ。
ミノタウロスが時々持っているちょっとした大きさの斧は、一体どこからもってきたのか。
コブリン、オーク・コボルトたちの装備は誰が作っているのか。
もちろん、情けないことに、というか自分たち本位で。
戦士した人間のものを拾ったり、彼らで自作している、というのが人間達の答え。
だがしかし、彼らとて『知恵』は当然与えているがゆえに、需要と供給。
という仕組みは当然のことながらに発生してくる。
それは人間達が知らないだけのこと。

「ふっ。そういうことよ。」
いって、ナーガは無意味に髪をかきあげて。
「人間にはその存在すら絶対秘密!モンスター装備品専門店『頭蓋砕きスカルマッシャー!』
そんなナーガの言葉に。
「…ず、ずいぶんと殺伐とした名前ですね……」
多少戸惑いつつ、声を出しているゼロスに。
「……というか。この場合、このファンシーな建物とこの内装のほうが間違ってないか?
  ……ん?ちょっとまて。人間には秘密、といっているが。
  この店を建てたり、売り物を調達しているのは……」
この店の前にとかかっていた看板の文字は。
あれは、確か前に、レゾと一緒に少し研究をかじったことが…アレは……
そんなことを思いつつ、問いかけるゼルに対し。
「ふっ!あまいわね!ゼルガディス=グレイワーズ!!
  人工物はすなわち、人間の手によるもの、なんて考え方は奢り以外の何者でもないわ!」
いいつつ、無意味にまたまた髪をかきあげて。
「この店のオーナは他でもない。ドワーフなのよ!」
「嘘だろ?!」
「ええ!?」
「……そんなことをしてたんですか。ドワーフさんたちは……」
驚愕の声をあげているゼルに。
思わず驚きの声を上げているアメリア。
そして、ため息まじりにそんなことをつぶやいているゼロス。
ま、彼らドワーフたちは、もっぱら地中に暮らしているし。
それに、あまり地上に出てこないからねぇ。
それに、少し前の戦いで、なぜか個体数も減ってるし。
まあ、そんな理由はさておいて。
一応、人間達の認識の中においては。
彼らは地中に穴を掘り、そこで生まれて死んでゆく。
人より長い寿命を持ちながら、一生地上の空気を吸ったこともないものが多い。
というのが人間達にとっての一般的な認識。
事実はかなり違うんだけどねぇ。
あと、有名なのは、人間達が地下遺跡だ、と思っているそれらは。
実はドワーフの住居跡なのではないか?
という説ももっぱらと信憑性が高い可能性、として人々の中では言われていたりする。
ま、中にはそういうのもあるけどね。
ドワーフといえば、忘れてはならないのが。
結構彼らは手先が器用なので、結構そこそこの腕の鍛治師にして、工芸師、ということも上げられる。
人間達の世界というか社会では、『ドワーフ製』というだけで、武器・防具や工芸品などに高値がつくことが珍しくもない。
事実、未だに人間達の中においては持ち得ない技術を持っている、というのがあるにはあるのだけど。
ゆえに、そういった品物を求める人間達もまた、少なくない。
少しでも高いクオリティを求めるのは、それは生きるのもとしての常識。
あたしたちがそんな会話をしている最中。
『……秘密だ。というておるのに。ぺらぺらとしゃべるし。この娘は……』
あきれたようなその声は、あたしたちの後ろから。
「「――え?」」
いって、その声にあわてて後ろを振り向いているゼルとアメリア。
気配…感じ(ませんでした)(なかったぞ)。
そんなことを二人同時に思っていたりするけど。
……ま、地中から出て来たしね。
というか、そこに地中に続いている道があるんだし。
彼らが声がした方を振り向くと同時。
あたしたちが今まで入っていた棚の中。
その床板がごとり、とはずれ。
「……よっ…こら……」
そこからのそのそと這い出てきたのは、髭を蓄えた小柄な男性。
「店長!」
その姿を目にしたナーガが声を上げる。
「……ドワーフさん。ですねぇ。まちがいなく。」
その姿をみて、ぽつり、と言っているゼロスに。
「なあなあ。リナ?この人、何か気配が人でもないし、何か知らない気配なんだけど?魔族でもないし?」
そんなことを言いながら、あたしに聞いてくるガウリイ。
「……ガウリイさん。ドワーフですよ。ドワーフ。」
そんなガウリイにあきれつつも説明しているアメリア。
「おお!そ~いえば、昔何か絵本でみたような姿のような気もしなくも!」
ぽっん。
と手を軽く叩くガウリイに。
「……何かかわった人間じゃのぉ。」
そんなガウリイを多少あきれつつも、見ているドワーフ。
そしてまた。
「……本当に父さんの小柄版…みたいです。」
何やら、自分の父親に対して、至極当てはまりすぎなことをつぶやいているアメリア。
「「「確かに。」」」
そんなアメリアの言葉に、きっちりと声をハモらせている、ゼロス・ガウリイ・ゼルの三人。
そして又。
「?……おぬしら。名前は?」
あたしたちをみつつ、問いかけてくるその言葉に。
「あたしはリナよ。で、こっちがガウリイ。」
「謎の神官、ゼロスといいます♡」
「……ゼロス?」
あたしに続き、ゼロスがいうのと同時に。
顔を多少曇らせるドワーフのガント。
…ま、ゼロスの名前、ドワーフたちの間でも有名…ではあるからねぇ。
「私はアメリアです。こっちは私の姉さんなんです!」
いって、ナーガをみつつも、ぺこり、と頭を下げているアメリアに。
「俺はゼルガディスだ。」
ドワーフの現物をみたのは初めてだな…以前、レゾが研究材料で手にいれてたアレは、もう死んでいたし。
などと思いつつも自己紹介をしているゼル。
「……一人ほど名前が気になる人間もいなくもないが。
  ……気の毒に。アレと同じ名前とはの……
  ……とにかく。わしはガント。この店の主じゃ。そっちの娘は……」
と、いいつつ、ナーガを目でさして。
「山の中で行き倒れておったのでな。……しかし、まさか知り合いとこの娘の妹とはの。」
いいつつも、ナーガとアメリアを見比べているガント。
そして。
小さく、
「なるほど。」
気配というか雰囲気はよく似ておるな。
だが、この妹のほうがまともみたいじゃの。
そんなことを思いつつ。
「この店のことは、人間には秘密じゃ。が、まあ知られてしまったものは仕方がない。
  悪いが口封じのために――お主たちも店のバイトをやってもらうぞ。」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
「………は?」
しばしの沈黙のうちに。
思わず聞き返しているアメリアとゼル。
そして。
「……お店のバイト……ですか?」
とまどいつつも、問いかけているゼロス。
ガウリイにいたっては、きょとん、としていたりするけど。
アメリア達やゼロス達の反応をみつつ。
「おぬしら人間からしてみれば。コブリンやミノタウロスに武器を売るなどけしからん。
  ということになるんじゃろうな。じゃが、わしらドワーフにとっては何ものであろうと客は客。
  人間だけに力を貸せ、などという言い草のほうがよほど勝手に聞こえるんじゃが……
  ともかく。こういうミセのことが人間達の間に伝わると少々うるさいことになる。
  かというて、見た人間は殺す。などという物騒なことをしておってはいつかは人間達と戦争じゃ。
  そこで。ここを見つけてしもうた人間にはしばらく店を手伝ってもらい、ちゃんとその報酬も渡す。
  人間の社会に戻ってから、この店のことを他のものに話せば、自分がそこで。
  コブリンだの何だのに武器を売る手伝いをした。と明るみに出ることになる。」
髭をなでつつも、説明するガントの言葉に。
「そんなことをしなくても綺麗さっぱりと消して差し上げれば、
  只の『行方不明者』で片付けられるでしょうに♡」
さらり、と至極最もなことを言っているゼロスではあるが。
「ゼロスさん。それは正義ではありません。」
そんなゼロスの抗議の声を上げているアメリア。
「ゼロスのことはほっといて。……だが、しかし。なるほど。
  いわば言い方は悪いかもしれないが、共犯者に仕立て上げれば問題はない、ということか?」
「こんなファンシーな店模様はそれでですか?」
冷ややかにゼロスをみつつも、ガントに問いかけるゼルと、多少あきれてつぶやくゼロスの言葉に。
「さよう。そこはそれ。商業戦略、というやつじゃな。」
いって、にやり、と笑い。
「女性客の取り込みを狙っておる。」
そんなガントの言葉に。
「女性客!?」
思わず驚きの声を上げているアメリアとゼロス。
「ま、飲食店とかではよく女性客を意識したつくりにすると売り上げが伸びる、という経緯もあるしね。」
さらり、というあたしの言葉に。
「さよう。――ともあれ?バイトの返事をまだ聞いてはおらんが?」
うなづきつつも、あたしたちをざっと見て問いかけてくるガントの言葉に。
「バイト料がでるんだろ?」
今まで黙っていたガウリイが、そんなことを聞いていたりするけども。
それをうけ。
『えええええええぇ!?ガウリイさんが話しについてきてます!?』
「何ぃ!?天変地異がおこる前触れか!?」
「……明日は雨かしら?」
至極当然な反応をしている、アメリアとゼロス。
そして、ゼルにナーガ。
そんな彼らの声をうけ。
「…………この反応はいったい?」
戸惑いの声を上げているガント。
「あ。気にしないで。ガント。いつものことだから。
  このガウリイ。いつも長い話だとすぐに寝ちゃうのよ。ともあれ。金額はどのくらい?」
そんなガントに、にこやかに説明し、わかっているけど問いかけるあたしの言葉に。
「一日でこれくらいかの?」
言って、ガントが開いた手の平の中には、小さな金塊が。



「「「いらっしゃいませぇ♪」」」
ドアベルを鳴らしてやってきたコブリンの団体にあたしとアメリア、ナーガの声が重なる。
「いらっしゃいませ。」
なぜか憮然としているゼルもまた、仕方なく挨拶してるけど。
結局のところ、こういった機会を持つのも何ごとも経験です!
という、アメリアの力説もあることながら、あたしとしては、これ、実はちょっと面白いことやってるので。
バイトの話しをうけていたりするこの現状。
制服のエプロンドレスに身をつつみ、ナーガと共にあたしたちもまたアルバイトを開始する。
ガントがゼルやアメリア達に説明したところによれば、客たちの中には夜にやってくる連中も少なくない、ということ。
ガウリイはその野生の勘を見込まれて、倉庫整理をやっていたりする。
ま、ガウリイだけでは何だから。
というので、ゼルも一緒に倉庫整理、というか、正確にいうならば、客たちが払ってゆく代金の整理。
と言いかえるところなのであるが。
アメリアはナーガに引っ付き、会話はナーガに任せて、もっぱら補佐役に回っており。
あたしやゼロスといえば、当然どの言葉も話せるがゆえに、かるく接客に当たっていたりする。
面白いので、ゼロスにもエプロンドレスを装着させているけど、これがまた、結構面白いったらv
入ってきたのは、コブリンの女性が十五人ほど。
そして、彼女たちは店内を見回りつつ。
『わ~♡この片手おのちょ~かわいい♡』
『でもそれ、サイズが大きくない?それよりあんたこっちのウロコ鎧スケイルメイルのほうが絶対に似合う~。』
『え~。でもわたし的には武器のほうがぁ。』
などといった、若い女性特有の会話をしつつ、店内を物色して回っていたりする。
ま、種族が違えども、その辺りの感覚はあまりかわらないようにしてるしね。
面白いから♡
『客』達による支払いは、もっぱら植物やら、狩りの獲物やら。
つまり、ドワーフたちの生活においてはあまり手に入りにくいものばかり。
店内にある、外見が古びたように見える品物の外見は、それは元からデザインの一部。
というのは、間近でみれば、アメリア達の目にもあきらか。
しばし、アメリア達と共に接客の対応をしていると。
『ぎゅげ?』
コブリンの一人が、何の音?
といいつつ、首をかしげる。
それと同時に。
……ご…ごごごごごっ!
大地が、そして建物が揺れてゆく。
「「地震!?」」
アメリアとゼルが思わず声を上げると同時。
どごばぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
店の床がはじけて散ってゆく。
これがあるから、ここにきた、というのもあるのよねv
それと共に、店の客たちの悲鳴が店の中にと響き渡る。
正確にいうならば、はじまった!という歓喜の悲鳴、ではあるんだけど。
ナーガとアメリアはカウンターの内部にいたがゆえに、その『被害』にはあってはいないが。
見れば、店の床にぽっかりと穴が開いていたりする。
カウンターの中にナーガとアメリアの姿と。
穴の横で驚いて戸惑っているゼル。
そして。
「な~んか。客たちは慣れてるなぁ。」
的確に図星を言って、のほほんとしているガウリイ。
客たちは、音とともに、あるものは、店の外にでて。
あるものは、ちゃっかりと店の片隅にと移動していたりするのだが。
ま、いつものことだし♡
これは♡
「何ごとだ!?」
その音を聞きつけたかのように棚の地下から飛び出してきたガントは、店内の様子をみて、
申し合わせのとおりに小さくうめく。
「……い、いったい何が……」
『ふははははは!すまんなガント!』
ガントの声に重なり、店内にと響く別の声。
「貴様!?」
演技、とは見破られないような迫真の演技で、その声の主がいる穴の中をにらみつけているガント。
店内にぽっかりと空いた穴の中から。
ゆっくりと、せりあがってくる【何か】。
まず、アメリア達の目に見えたのは、一本の角。
そして、それをはやした玄鉄の兜。
その顔には悪鬼を模したフェイスガード。
ちなみに、それが、『彼』にとっての制服だったりv
黒い全身鎧フルプレートに身を包んでマントを纏い。
堂々と腕を組んだ――誰の目にもあきらかな、体格からして一人のドワーフ。
そして。
続いて、見えたのは、穴に間に合わず、というか自ら率先して落ちたコブリンたち。
そして、そんな彼女たちを上に乗せた――
一匹のちょっとした大きさのモグラがその鼻づらを穴の中より店の中にと姿をあらわし。
のせた客たちを安全な場所にと降ろしていたりする。
そして。
黒騎士の格好をした『彼』は、モグラの鼻の高みからガントをみつつ。
「我が愛騎、このオオモグラのゲンエンゴンブの手綱を少々過ってな。」
「嘘をつけ!わざとじゃろ!露骨な嫌がらせをしよって!」
演技に真実味を増そうと迫真の演技で、その顔を紅潮させつつ、声を上げているガント。
傍目からみれば、事情を知らないものがみれば、本当に喧嘩をしているようにみえたりするけど。
それはそれ。
勘違いは勘違いのままにしておいたほうが、後々面白いしv
まだ今は…ね♪
「……知り合い?」
カウンタから出てきて、戸惑いつつも声を上げるアメリアのづぶやきを耳にして。
真っ向から穴の中から出て来たドワーフを指差し。
「奴は我がライバル店!『万魔殿バンデモニウム』店長。暗黒騎士アビスフレイム!」
高らかに言い放つガント。
「……店長の名前ではないと思いますが……それって……」
そんなガントの言葉に突っ込みをいれているゼロス。
ちなみに、あたしとゼロスは何ごともなかったかのように、
床のない穴の上を歩いて、そのまま床が残っている場所に移動しているけど。
そんなゼロスのつぶやきは。
コブリンたちが暗黒騎士、と名乗った彼に向けてはなった、傍目からみればブーイング。
というか、彼女たちもこういうの好きだから来てるんだしねぇ。
キャンペーンを目当てに♡
そんなコブリンたちの上げた声にてかき消されていたりする。
「しかし!ものはかんがえようぞ!ガント!」
そんな彼の言葉をうけ、次なるイベントを楽しみに、わくわくと声を静めるコブリン達。
「こんな。女子供に媚を売る武器・防具屋などやめてしまえばいいのだ!」
それをうけ、再び、それを合図とばかりにブーイングを浴びせる女性客たち。
「武器とは戦うためのもの!覇道の気概なきものに武器を手にとる資格もなし!」
「護るための武器もあろう!」
そんな彼にむかって言い放つガント。
結構、これ目当てにやってきている客が増えている……というのも事実なのよね♡
これがまた♪
「笑止!おためごかしを並べたところで所詮武器とはすなわち力!
  我が『万魔殿バンデモニウム』は惰弱な貴様と違い、覇道を志すもの達のために開かれた店!
  我らの武器を掲げたものがやがて人間達をも配して世界を制す!それこそが我らの野望!」
などとそんなことをいう彼の言葉に。
「何を偉そうにいってるんですか!」
そろそろ堪忍袋の緒が切れて、何やら言い始めているアメリア。
そして。
そんなアメリアに全員の視線が集まっていたりするけど。
「――ほう。人間か。」
そんなアメリアに気づいて声を漏らすアビスフレイム、となのっている人物。
ま、この名前、店用の名前だしねぇ。
本名はまた別だし。
「自らの牽制を脅かすものは非難するか。傲慢にして暗愚なり!」
高々と言い放つ、アビスフレイムの言葉に。
「あなたには正義の心はないんですか!?
  店をいきなりモグラで壊して大穴をあけておいて!あなたのほうがよっぽど悪です!」
「そうね。この子のいうとおり。寝言は寝てからいってほしいものね。」
姉妹して、そんなことを言っているアメリアとナーガ。
そんな二人の言葉に。
「ふはははは!この娘たちの言うとおり!一本取られたのぉ。アビスフレイム!」
いって、アメリアとナーガの二人の間にずいっと輪って入り、ちらり、とあたしたちに視線を向けてから。
「だが、これはわしとアビスフレイムの問題!ここはわしにまかせてもらおう!」
そういうガントの言葉に。
「いいえ!こういう人には正義が何たるか、懇々と説教する必要があります!」
何やらわめいているアメリアの言葉に、一瞬ひるむものの。
だがしかし、とりあえず、聞かなかったことにして。
「ならば勝負じゃ!アビスフレイム!明日から十日間の売り上げでわしが勝てばその兜脱いでもらうぞ!」
「よかろう!ただし我が勝利した暁にはこの店の外装内装、共に闇の色に塗りつぶさせてもらおうぞ!」
「もしそうなれば、貴様なんぞの手をかりるまでもなく。わしがこの手で黒塗りしてやるわい!」
いつもの、というか、毎回同じようなコレをやってて、よくもまあ、客が飽きないことv
『彼ら』の事情を知らないアメリアやゼル達からすれば、
何やら二人から火花を散らしているように見えていたりするけども。
「ふっ!後悔させてやるぞ!ガント!せいぜい十日後を楽しみにまっておるのだな!
  ゆくぞ!ゲンエンゴンブ!ふはははは!」
アビスフレイムと哄笑を乗せて、モグラはそのまま、再び穴の中にと沈んでゆく。
「あ!!!待ちなさい!逃げるなんて卑怯です!」
何やらいって、追いかけようとしているアメリアだけど。
「まあまあ。アメリア。そんなに力まない、力まない♡まだお仕事は残ってるのよ♡」
にこやかにいうあたしの言葉に。
「リナさんは何ともおもわないんですか!?」
何やら食い下がってくるアメリアだけど。
「とりあえず、お客の安全が最優先、違う?」
くすり、と笑い話しかけるあたしの言葉に。
「……それは…まあ、そうですけど……」
しぶしぶながらに踏みとどまっているアメリア。
そんなあたしたちの会話とは別に。
しばし、店内が静寂に包まれる中。
「よぉっし!そういうわけだ!お客さんがた!
  明日から…いや、ケチなことはいわねぇで。今日からしばらくは全品二割引だ!
  知り合いのみんなにもいっといてくれよ!」
『ギュゲー!』
今回は結構お得なセールじゃない!
などと、歓声の声を上げつつ、
コブリンたちはそのまま穴を気にすることもなく、買い物にと興じていたりする。
ま、彼ら、このこと知ってて来てる、というのもあるし。
女の子って買い物…好きだしね。


一夜明け。
「…これはまた。」
思わず感心した声を上げているゼロスに。
「ドワーフの工作能力……さすがだな。」
などと感心しているゼル。
みれば、昨日空いた床の穴は綺麗にふさがれており。
営業にまったく差し支えがなくなっていたりする。
昨夜は真夜中ごろに閉店し、店内の地下にある従業員の寮にて一眠りしたあたしたち。
朝やや遅くに目が覚めたアメリア達が店に顔を出して目にしたものは。
昨日の痕跡すら残していない店の姿。
ま、ゼロスとガウリイは何かがある、というのに気づいたらしく。
深くは今回のこれは考えないことにしよう。
という意見でまとまっていたりするけど。
遅い朝食兼昼食をとり、昼少し前にと店をあける。
客入りは昨日よりも圧倒的に多く。
女の子のクチコミ、というのは、どの種族においてもいえることながら。
井戸端会議…と人間達の間では言われているそれは。
あっというまにとひろまってゆき。
二割引セール、という話しを聞きつけた客たちが、こぞって店にとやってきていたりするこの現状。
ガウリイとゼルでせこせこと、払われてゆく代金の整理をしながらも。
あたしたちはあたしたちで接客業。
『鋼のウロコ鎧お買い上げですね。代金の鹿二頭お預かりしますv』
「ほ~ほっほっほっほ!」
『ご贈答用ですか?ご自宅用ですか?包装のリボンの色はどうします?』
「ほ~ほっほっほっ!」
「おまたせしました。」
ナーガの横で、いそいそと袋につめて、客に渡しているアメリアの姿と。
カウンターで対応しているナーガとゼロス。
そして、あたしといえば、客たちに商品説明をしていたりするけども。
品物を売った動物とか植物とかの『代金』は後ろに控えているゼルとガウリイにと手渡され。
カウンターの後ろに並んでいる棚の一つにと彼らが分類してわけて収めてゆく。
そこには、扉がいくつか並んでおり、その床がそれぞれに開くようにとなっている。
一つは店長のプライベート通路。
一つは従業員用の地下寮。
一つは在庫品倉庫で、一つは代金、というか品物の貯蔵庫となっていたりする。
ナーガはよく、品物を入れる棚を間違えて、寮に降りてみるとイノシシの死体が転がっていたり。
ということをしばしばやっていたようだけど、それはそれ。
ガントはひっきりなしに、倉庫と店とを往復し、商品補充などにおわれている。
もっぱら、代金整理はガウリイとゼルの担当になってるし。
そのまま、客の対応に追われるままにと時間はすぎ、
夕方に、そして夜になるにつれ、さらに客の数はふえてゆく。
やがて。
「ブグゴ?」
客の一人のオークが眉をひそめるのと同時。
…ご…ごごごごご……
大地が、そして建物が揺れ始める。
こ……この展開は?
などと、アメリア・ゼル・そしてゼロスが思うと同時。
どごぱぁぁぁぁぁぁぁぁ!
彼らの予想通り、店の床がはじけてちってゆく。
そして穴の中から出て来たのは、ちょっとした大きさのあるミミズたち。
店内に広がる歓喜と、イベントを楽しむ客たちの声。
といっても、事情がわかっていないアメリア達の耳には悲鳴に聞こえていたりするんだけど。
「これは!おそらくライバル店のいやがらせじゃ!」
その光景にガントが声を張り上げ。
「お客さんがた!手近な武器をおかしする!撃退にご協力を!」
ガントの宣言に、なれたもので、客たちのまってました、とばかりの雄たけびが一つとなり。
それぞれに武器を選ぼうとしたその刹那。
氷の槍アイシクルランス!!」
振動弾ダムブラス!!」
アメリアの放った冷気呪文がミミズたちを一瞬のうちに凍らせ、それをナーガが放った一撃で粉砕し。
しぃぃん……
客たちが動く間もなく、あっさりとカタがついたそれをみて。
思わず静まり返っている客の姿がそこにあったりするけども。
そして。
「ほ~ほっほっほっ!この程度の相手!お客様たちの手をわざわざわずらわせるまでもないわ!」
「こうなったら!姉さん!向こうに直接に苦情をいいにいきましょう!
  これではお仕事どころではありません!」
「ふっ。そうね。店長、ちょっと向こうに苦情いってきますわ。お~ほっほっほっ!」
姉妹仲良く、そんなことを言いつつも、二人がそんな会話を言ったその直後。
二人はそのまま、その穴の中に身を躍らせていたりする。
「……ち、ちょっとまっ!!」
ガントがあわてて二人を止めようとするものの。
だがしかし、もう遅い。
そのまま。
浮遊レビテーション!」
明かりライティングよ!」
そのまま、二人は穴の中に身を躍らせて、姿はあっという間に見えなくなっていたり。
そして、後には。
「あ゛あ゛あ゛!?あいつら呪文が仕えたのか!?まずいっ!」
何やらわめいているガントの姿。
それをみて。
「?何がまずいんだ?」
きょん、として問いかけているガウリイに。
「実はの……」
いって、残されたあたしたち。
すなわち、あたし、ゼル、そしてガウリイ・ゼロスにと、ガントからとある説明がなされてゆく。


一方。
あたしたちが店長であるガントから説明を受けているそんな中。
こちらでは、人の話をきく間もなく、先に穴にと下りているセイルーン姉妹。
大ミミズが暗黒騎士を名乗っていた人物の差し金ならば、
穴をたどってゆきさえすれば、おのずと敵のアジトにつく。
というのがアメリア達の考え。
だがしかし。
「……これは…想像外でした。」
「確かにね。」
二人して、ちょっとした長さのトンネルをくぐり出た先の洞窟において、顔を見合わせているアメリアとナーガ。
半球状態の空洞には、アメリア達がやってきた以外にもいくつかの穴が、上下左右。
といった具合に、ところかしこと開いていたりする。
その数、アメリア達の見た限りではおよそ十数個ばかり。
実際は、これらの穴はこの辺りには百二十二個あったりするんだけど、
それはアメリア達は気づいてないし。
これは…下手に進んだら間違いなく迷いますね。
そんなことをアメリアは思いつつ。
「一旦もどって、きちんとした場所を聞いてきますか?姉さん?」
そういうアメリアの言葉に。
「お~ほっほっほっ!アメリア、まだまだね!何を弱気なことをいってるのかしら?
  いつもお父様がいってるじゃないのよ。正義あるところ、すなわち、おのずと道は開ける。とね!
  弱気なことをいうなんて、アメリア。あなたらしくないわよ!」
いいつつも、洞窟内部に笑い声を響かせつつ。
「それに第一。あの店長のことですもの。相手の居場所を教えてくれるどころか。
  『これはわしの問題だ。お前たちは店番でもしておれ。』というのがせいぜいよ。」
そんなナーガの言葉に。
「確かに。あの人ならそういいそうですね。
  そうですね。正義がこちらにある限り!道は必ず開けますよね!さすが姉さんです!」
いって、目をキラキラさせて、ナーガをみているアメリア。
そんなアメリアに気づかれることなく小さく。
「第一、もしも店長に止められでもしたら、
  示談って名目であいてを倒して奪い取ったドワーフの製品を地上でうってまるもうけ。
  という夢がおじゃんだし……」
何やらぽつり、とつぶやいているナーガ。
というか、あんな製品、ドワーフ製、といっても人々は信じないってば、ナーガv
「?姉さん?何かいいましたか?」
「何でもないわよ!アメリア!お~ほっほっ!とにかく、いきましょ!
  洞窟の新しいものが、すなわち。きっと敵のアジトに続いているはずよ!」
「はいっ!」
そんな会話をしつつも、きょろきょろと周りを見渡して。
「きっと姉さん!こっちです!」
いいつつ、一つの穴を示しているアメリア。
「きっと、この穴に違いありません!昨日の大もぐらもこの穴を通ってきたんでしょうし。
  先ほどの大ミミズはともかく、モグラならば、ちょっとした大きさの穴が必要です!」
「お~ほっほっ。さすがね。アメリア!さすが私の妹だわ!」
そんな会話をしつつも、一つの穴にと進んでゆくアメリアとナーガ。
少し大きめの穴を進むことしばし。
目前に続いている長い穴。
そして、その先の闇から何やら気配を感じ、思わず立ち止まる二人の姿。
低い地鳴りとともに、何かが自分たちのほうに向かってやってくる気配。
それらを感じ取り。
口の中ですばやく呪文を唱え。
氷の槍アイシクルランス!」
いって、気配がするほうにと術を解き放つアメリア。
放った一撃は、前方の闇で何かにあたる気配。
「ビクトリ~!」
アメリアがそういったその刹那。
ド……ドド……
地鳴りは一瞬滞ったものの、再びアメリア達のほうに向かって近づいてくる。

アメリア達が穴に入ってしばらく。
ガントから、コトの次第を聞き終えたあたしたちは。
「早くなら、あいつらを止めないと!」
いって、あわてて、穴の中にと飛び込んでいっているゼルの姿。
そして、アメリアのもっているアミュレットの魔力波動から、その位置を確かめて。
そちらに飛行の術で飛んでいっていたりするし。
そしてまた。
「……リナ、お前しってただろ?」
あきれつつも、だがしかし。
ああ、やっぱりこういうことだったのか。
と思いつつ、あたしに聞いてくるガウリイ。
「当然。当たり前じゃない♪」
そんなあたしの言葉に。
「なるほど。だからリナさんは攻撃とかしかけられてきても、何もしなかったんですねぇ。」
何やらしみじみとつぶやくようにいっているゼロス。
「…ちと聞くが?あの娘ら…どの程度までの呪文を使えるんじゃ?早くどうにかしないと……」
いいつつも、多少顔色の悪いガント。
「あのナーガとかいうアメリアの姉ちゃんは、
  とにかく、目先のことに目的を忘れる、とかリナいってたし。
  アメリアの場合は正義が貫ければ、結果はともかく、それでよし。の節があるし。」
さらり。
と的確なことを何やら言っているガウリイだけど。
「ともかく。ここで何をいってても何だし。
  あたしたちもとりあえず、店をきちんと閉めてから。それからおいかけましょ♡」
あたしの言葉に。
「確かに。店をこのまま、というわけにもいかないの。」
何やらどうしようか、思案に明け暮れているガント。
「それか、ゼロス一人で店番させて、あたしたちは追いかけるか♡」
あたしの提案に。
「おお。この人ならば、どうやらどの言葉でも出来るらしいから適任じゃの!」
「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!?僕一人がですか!?」
ぽん、と手を叩きつつ、にまっと笑うガントの言葉に。
何やら抗議の声を上げているゼロス。
「ということで、決まりね♡」
「………わかりました……」
素直にゼロスが納得したところで。
あたしたちもまた出かける用意をし、アメリア達を追いかけてゆくことに。

ドドド……
どんどんと近づいてくる地鳴り。
「?アメリア達がいるほうから?」
ゼルがそんなことを思いつつ、そちらにむかってゆくものの。
だがしかし。

明かりライティングよ!」
アメリアが、何ごとか、と思って前方に明りを放ったその刹那。
その明りの下に照らされたのは――アメリア達のほうにと向かってくる穴を埋め尽くすミミズ達の姿。
『ミ…ミミズぅぅぅぅぅぅぅぅ!?』
それをみて、アメリアとナーガが叫び声をあげると同時に。
そのまま。
どどどどどっ!
そのまま、ミミズはアメリア達をも飲み込んでゆく。

「?今何かアメリア達の声がしたような……」
時を同じくして、アメリアの持っているアミュレットの魔力波動をたよりに移動していたゼルもまた。
何やら洞窟内部が振動しているのに気づき、思わず身構える。
が。
次の瞬間。
どどどどどっ!!
「…なっ!!!!!!!!!!!?」
気づいたときにはすでにおそし。
そのまま、ゼルもまた、穴の中を雪崩れるようにして移動してきたミミズの群れにと飲み込まれてゆく……



ぼんやりとした明りがみえる。
…えっと?
あれ?私は?
そんなことを思いつつ、ぼんやりとアメリアが目を見開く。
次にアメリアが感じたのは、湿った土のにおい。
しばし、数回またたき、ようやく自分が横になっているのに気づき。
「…あれ?」
いって、声を出しているアメリアだけど。
そんなアメリアの耳に。
「お。気がついたか。」
聞きなれない声がアメリアの耳にと聞こえてくる。
みれば、そこには見たこともないドワーフが一人。
決して広い、とは絶対にいえない部屋。
天井にと埋められた小さな光石が部屋の中をぼんやりと照らしている。
「……?」
私は一体?
そんなことを思いつつ、声をかけてきたドワーフを見つめるアメリアに。
「いやぁ。まさかあんなところに誰か……しかも人間がおるとは思わんかったぞ。」
いいながら、アメリアのほうに歩み寄る。
「……私、一体?」
とまどいの声を上げるアメリア。
確か、私は姉さんと一緒に穴の中を進んでいて…そして……
そこから、なぜか記憶があやふやではっきりしない自分にとまどいつつ。
首をかしげるアメリアに。
「覚えておらんのか?」
いって、真面目な顔つきで。
「お前さん。ミミズ雪崩れに巻き込まれたんじゃよ。」
「……ミミヅ?」
アメリアにとっては理解不能ともいえるその言葉に、思わず問い返しているアメリア。
「おう。オオモグラ用のえさを集めるためのミミズ追い込み漁をしておってな。
  そこにあんたは巻き込まれたってわけだ。服は一応ざっとふいてはおいたが…覚えておるか?」
そんな彼の言葉に。
「何を冗談をいってるんですか?
  ミミズに巻き込まれる、なんて、そんな現実にあるわけないじゃあないですか。」
そうは思えども、なぜ震えが止まらないんでしょうか?
そんなことを思っていたりするアメリアだけど。
「―…あ゛~…ショックで記憶がな……」
そんなドワーフのつぶやきはかろうじてアメリアの耳に届くが。
「私と姉さんは地下に入って…確か。そう。落盤!落盤にあって気を失ったんです!
  そう、確かそうに決まってます。で、あなたが助けてくれたんですか?
  あの?私のほかにももう一人、私の姉さんがいたはずなんですけど……?」
いいつつも、ベットから降りるアメリアに。
「……まあ、そういうことにしておいてあげよう。じゃが、もう一人いたのか?
  わしが見つけたのはお前さん一人じゃったが?
  お、まだ名乗ってなかったな。わしはブドゥドじゃ。」
「私はアメリアです。えっと、ブドゥドさん、助けてくれてありがとうございました。」
いって、ペコリ、と頭を下げるアメリアに。
「じゃが、もう一人おったのか?……まあ、あの程度のコトで死にはせんだろうが……」
「姉さんなら何があっても大丈夫です!絶対に!」
断言するアメリアに。
「……そう断言せずとも………」
思わず唖然とするブドゥド。
「あ、助けてくれたお礼をしたいのですけど。」
そういうアメリアの言葉に。
「あ~。いらん、いらん。そんなもん。
  お前さんがた人間は取引や例に金や銀で出来たコインを使う。という話しを聞くが…
  正直、そんなものをもらってもありがたくないからのぉ。
  わしらにとっての金や銀は無価値、とまではいわんが、掘るところを掘れば出てくるものじゃ。
  細工師ならば材料に使うんじゃろうが、わしのようなおおもぐら飼いにとっちゃあ意味はないからの。」
そういうブドゥドの言葉に。
「そうですか…なら、お言葉に甘えさせてもらいます。ありがとうございました!」
元気に挨拶するアメリアに。
「うむ。怪我がなくて何よりじゃ。」
…まあ、気持ちわるい、というのはあるじゃろうがの。
そんなことを思いつつも、うんうんうなづくブドゥド。
そして、ふと。
「そういえば、今、ブドゥドさん。大モグラ飼い、といいましたけど。
  やっぱり牧場みたいなところで飼育してるんですか?」
好奇心から、ふと問いかけているアメリアに。
「なんなら見学にいくかの?あ、しかしえさ用のミミズ槽とかあるが……」
「やっぱりとりあえず遠慮しておきます。」
そんな彼の言葉に、自分でも気づかないうちに、即答しているアメリア。
ま、あの感覚はしばらくは抜けないでしょうねv
「そうか。……まあ、そのほうがいいかもしれんな。」
また、ショックをぶり返してもな。
そんなことを思いつつ、うなづくブドゥドに。
「あ、というか、忘れてましたけど、私、やらなければいけないことがあるんです。
  えっと、ブドゥドさん。このあたりに、アビスフレイムって人がやっている、『万魔殿バンデモニウム
っていう。
  武器・防具店ってありますか?」
「おう。しっとる。しっとる。」
そんなアメリアの問いかけにうなづきながら。
「結構がんばっとるよなぁ。あの店も。チェーン店展開、とかいうのか?
  何でも最近新しい出したとかいう噂を聞くし。
  いやぁ、たいした繁盛ぶりだ。うちもあやかりたいもんさ。」
いって、がはがはと声を出して笑っていたりするけども。
なるほど。
裏でも他店舗への嫌がらせは表には知れ渡ってないんですね。
などと、一人、面白いまでに誤解した解釈をしつつ。
ともあれ、今ここでそんなことをいっても始まらない、というのは日を見るよりも明らか。
ゆえに。
「私、その店に用事があったんです。そこまでの道って教えてもらえますか?」
絶対に、あの暗黒騎士と名乗っているドワーフさんには、正義の説得をしてみせます!
などと、内心燃えているアメリアに。
「本店?…おお、あそこか。それならうちの大モグラで送ってやるよ。歩いてゆくにはちとあるからな。」
いってブドゥドは、にかっ、と豪快にアメリアに笑みを向けてゆく。

家をでて、思わず吐息を漏らしているアメリア。
家を出て、まず目につくのは、そこに広がっているドワーフの世界の光景。
ドワーフの家そのものも、一つの岩をくりぬいて創られている。
というのに驚愕していたりするアメリアだけど。
別のこの程度のことは、些細なことでしかない、というのに。
ま、あまりドワーフたちの生活生態…知られてないしねぇ。
人間達には。
家から出たそこにあるのは、ちょっとした浅いすり鉢を上下に合わせたようにちょっとした空間。
大きさとしては、小さな人間達の町くらいならばすっぽりと入る程度。
その全体が薄暗い光を放っており、その地下空洞の天と地とをつなぎ支える柱の数々は、
あきらかにそれは生き物の手がはいったもの、と見て取れる。
いうまでもなく、この空間すべてがドワーフたちの手によって作られているのは明白。
すり鉢の周りにそって道が走り、その道に面して家々の玄関が並んでいたりする。
道の壁すべてには光りゴケが植えられており、そこそこの明りは保たれている。
さらに、通りの角ごとに、光石フロウストーンが埋め込まれ、街灯の役目をも果たしていたりする。
あちこちの道をドワーフたちが大モグラを操り、走り回っており、
空間内部には何かを打ち付ける音が響き渡っていたりする。
「ここでちょっと待ってな。」
アメリアに一言いい、その場にアメリアを残しブドゥドは家を出ると少し先の角を折れて姿を消す。
多分、牧場か何かにモグラを連れにいってるんですね。
などとそんなことを思いつつ、アメリアはまつことしばし。
やがて。
……どど……どどどどど……
その重い地響きは、だんだんとその音を増し。
ずどどどどざしゃぁぁぁん!
轟音は側の角から、土煙を伴い引きずる黒い物体となり飛び出してくる。
直角に曲がってそのまま突っ込んでくると、アメリアの目の前で急停止。
ずんぐりと太い前足と後ろ足。
背までの高さは大体アメリアと同じくらい。
全長としては、その約二倍程度。
毛むくじゃらの体は普通のサイズ、というか、
アメリア達が見慣れているモグラとは多少からだのバランスが異なっているのもの。
どこからどうみても、それはモグラ以外の何者でもない物体が、
アメリアの目の前に移動してきていたりする。
それは、先日、店の中に鼻面だけ顔をだした、あのモグラとほぼ同じ容姿。
「またせたな。」
その背中、モグラにつけてある複座の鞍にまたがって、ブドゥドはにかりとアメリアに笑いかけ。
「これがわしの愛騎。バルダイズじゃ。さあ、乗れ。」
差し伸べられた手をとって、アメリアが鞍に乗るのをまって。
「いけ!バルダイズ!」
号令とともに、手綱がなって、そしてモグラは走り出す。
「ちょいとばかり揺れるが我慢してくれ!それとうかつにしゃべると舌を咬むから注意しな!」
「うきゃぁぁぁぁ~!?」
そんなブドゥドの言葉に、ただただアメリアは叫び声をあげているのみ。
そのまま、しばらくすり鉢上の周りにそって走っていき、やがて大空洞から離れると横穴へと入り、
光りゴケが壁のところどころに植えてあるだけの道をしばらく走り。
ほどなく――
「ついたぞ。」
いって、止まったその先は、至って普通の洞窟内部。
岩束も今出て来た穴をのぞけば人の手すらはいった形跡すらもない、ただの洞窟。
「ここからはもうバンデモニイム本店の敷地じゃ。こっちにまっすぐいけば玄関じゃ。」
いって、ブドゥドは洞窟の一方を指し示す。
アメリアがそちらに視線を向ければ、確かに。
光りゴケとは違う明りが見て取れる。
そのまま、ぴょん、とモグラから飛び降り。
ぺこり、とブドゥドにお辞儀をし。
「ほんとうにいろいろとありがとうございました!」
元気よく挨拶するアメリアの言葉に。
「うむ。達者でな。――いくぞ!バルダイズ!」
アメリアに向けて笑みを浮かべると、そのまま手綱を操り、モグラを方向転換させると。
そのまま、もときた道のほうにと戻ってゆくブドゥドの姿が。
そんな彼の後ろ姿を見送り。
そして。
大きく息をすいこみ。
「よっし!さあ!正義の鉄槌をわたしにいきましょう!」
一人、ガッツポーズをしつつ、そして、そのまま歩き出してゆくアメリアの姿。
アメリアが行く先は、未だにアメリアは誤解している。
暗黒騎士アビスフレイム、と名乗っていたドワーフが経営している、という店。


「……お~い?大丈夫かぁ?」
「…はっ!?…俺は…一体?」
つんつんと、倒れているゼルをつついていたガウリイが、何やら声をかけているけど。
そんなゼルの姿をみて。
「…どうやらミミズの追い込み漁に巻き込まれたようじゃの。」
いって、ゼルのフードの中に未だに残っていたミミズを取り出してそんなことをいっているガント。
「…ミミヅ?」
そんな彼の言葉に、ゼルは一瞬言葉を反復させ。
そして、ぶるるっ!と頭をふりかぶり。
「いや、確か俺は…そうだ。確か地震による落盤で。」
アメリアと同じようなことを言っていたりするゼルだけど。
「……あ゛~…どうやらショックで記憶が変化してるようじゃの……」
そんなゼルの言葉に、ぽつり、とつぶやいているガント。
あたしたちが穴の中に入りしばらくして。
しばらく進むと、何やらちょっとした音とともに。
穴の先から穴を埋め尽くす数のミミズたちが雪崩れるようにと移動して。
そんなミミズたちに飲み込まれるように、
ゼルもまた、何やらあたしたちのほうにと移動してきていたんだけど。
合成されている体はちょっとした重さがあるので、
しばらくミミズたちにもまれつつ、気絶しながら運ばれてたようだけど。
「ま、とにかく。アメリア達が暴走するのは目にみえてるから。あたしたちも急ぎましょ♡」
あたしのことばに。
「…あ、ああ。何か寒気がするのは…多分、この穴の中が湿っぽいからだよな?」
一人、何やらぶつぶつと言っているゼル。
まあ、ミミズのあの感触はちょっぴり変わった感覚、として記憶には残るでしょうしね。
精神的な面で混乱を避けるために、どうやら無意識のうちに記憶の修正が成されているようだけど。
アメリアにしろゼルにしろナーガにしろ。
ま、それはそれだし。
とりあえず、アメリア達が出てしばらくたつ、というのもあり。
あたしたちはてくてくと、穴の中をバンデモニウムにむけて進んでゆく。


ぎぃ……
重い扉が音を立ててひらいてゆく。
店の中にいるものたちの視線が一斉にアメリアにと向けられる。
瞬間、店の中の空気が凍りついたようにアメリアは感じるが、それにはおかまいなし。
店の中はダークブルーの色調で、かなり殺伐とした内装。
アメリアからすれば、悪人だからこんなおどろおどろしい内装にしてるんですね!
などとそんなことを思っていたりするけども。
雰囲気を出すために、わざわざかがり火が炊かれていたりする。
店内にいるのは、オークにミノタウルス。
そしてアメリアが驚いていることはといえば、なぜかエルフの女性までがいる。ということ。
だがしかし。
「店長はどこです!?」
高らかに宣言し、店内にと言い放つアメリアに。
驚きつつも、ちらっと視線を棚の一つに目を走らせるエルフの女性。
その動作をアメリアは見逃すことなく。
「わかりました!あそこですね!」
自分たちがガントの場所で働いていた場所とつくりはどうやら同じのようですね!
などと思いつつ、そのまま、ずかずかとカウンターの奥にと進んでゆくアメリア。
「あっ…あの!」
そんなアメリアをあわてて、エルフの女性が止めようとするが。
テンションがあがっているアメリアに、そんな声は届くはずもなく。
そのまま、カウンターを飛び越え、棚の床板を押し開け。
そのまま、その中にと迷わず身を翻してゆくアメリア。
降り立った先にあるのはまっすぐな通路。
耳を澄ませばそのうちの一つから声が聞こえてきて。
「あそこですね!」
いって、そのままそちらにと近づいてゆく。
すうっ!
大きく息を吸い込み、そして。
よっし!
そんなことを思いつつ、そのドアノブにと手をかける。
そして。
「ここまでです!暗黒騎士アビスフレイム!数々の嫌がらせ、断固として許せません!」
ばっん!
勢いよく、扉に手をかけて、開け放つ。

アメリアが扉を開ける少し前。
扉の向こうでテーブルを挟み、座っている二人の姿。
一方はエルフの女性。
ちょっとしたレオタードにふりるのレースがついたようなこの店の制服に身を包んでいるエルフと。
その正面にいるのは、先日ガントの店にやってきた暗黒騎士を名乗っていたドワーフの姿。
「…私だって仕事を続けたいんです。家にとじこもってばかりいたら世間が狭くなりますし。
  けど彼は自分の稼ぎで食べさせてやるからって、バイトなんてやめろ…って……
  やっぱり彼って私を家に閉じ込めておきたいんじゃないかな…なんて思うんです……」
アメリアが店の中に入ってきたそんな真っ只中。
こちらはこちらで、何やら実は従業員の悩み相談中だったりv
「う~む。しかし、どういうつもりなのかは彼に確かめてみんとな。」
いって、テーブルにおいたドリンクのストローをフェイスガードの隙間に差込み、一口すすると。
「確かにひょっとしたらお主を専業主婦にしたがっているらかもしれん。
  あるいはお主が働くことで自分の稼ぎが少ない。
  と暗に言われているような気分になっておるのかもしれん。」
「…そんな……」
私、そんなつもりは……
などと、彼女は思うが。
「あるいはうちのその制服が気に入らず。お主にその格好をしてほしくないだけなのかもしれん。
  しかし、いずれにしろ彼がお主を思うてくれておることにはかわりはあるまい。
  まず必要なのはよく話し合い、お互いの気持ちを確かめ合うことじゃ。店をやめる云々は。
  その後で考えればいい話じゃろう?」
などと何やら従業員の相談を受けているこのアビスフレイム、と名乗っているドワーフ。
というか、この制服が問題で、この女性の彼はやめてほしい、とおもってるんだけどね。
好きな女性が、かなり他人に肌を見せている、というのが気が気でないみたいだし♡
でも、も~すこし、この制服、考えればいいのにねv
ま、動きやすい、というのは確かにあるけど。
水着、といっても過言でないし、これ♡
ある意味、ナーガよりは少し布が多い程度だしね♡
「……はい。ありがとうございます。店長。」
彼女がそういったその直後。
バタン!
後ろの扉がいきおいよく開き。
「ここまでです!暗黒騎士アビスフレイム!数々の嫌がらせ、断固として許せません!」
いって、何やら叫びつつ入ってくる少女が一人。
いうまでもなくアメリアなんだけど。
「?」
「おまえは……」
確か、ガントのところにいた…人間のうちの一人?
などと、彼は思うものの。
だがしかし。
アメリアは、その場の空気が何やら一瞬戸惑っているのはお構いなしに。
ぴしっ!
と彼にむけて指をつきつけ。
「暗黒騎士アビスフレイム!ガントさんの店への数々の嫌がらせ!
  たとえ彼が許しても、このアメリアは許せません!
  正義の名のもとに、今ここにあなたに正義の裁きを下します!」
片手を腰にあてて、ぴしっ!と言い放つアメリアに。
「……店長?」
イベントは確か上の店だけ…では?
などと彼女が思う間もなく。
「……もしかして……」
とある可能性が頭をよぎり、思わずつぶやくアビスフレイムこと、ドゥクゥル。
それが彼の本名。
そして。
「…確かお前はガントのところの従業員……」
アビスフレイム、と名乗っている彼がそうつぶやくと同時。

ずどごぉぉぉぉぉぉぉん!!

爆発音が店のほうより辺りにと響き渡ってゆく。


「ほ~ほっほっほっ!出てくるがいいわ!暗黒騎士アビスフレイム!
  この白蛇のナーガ様が直々に話しをつけにきてあげたわよ!」
音をききつけ、アメリアもまた、もしかして。
などと思いつつ、くるり、ととりあえず身を翻して店にと戻ると。
そこにいたのは、案の定。
そして、そんなアメリアに続き、
店の地下から出てきているこの店の店長でもあるアビスフレイムことドゥクゥル。
ナーガの攻撃呪文によって、吹き飛んだ店の扉の辺りからは黙々と煙がたちこめ。
そして。
店の中央近くにある商品展示台の上にはエプロンドレスの姿で仁王立ちになっているナーガの姿が。
「ああ!姉さん!一人だけ高いところで目立つなんてっ!ずるいです!」
ごけっ。
そんなアメリアの言葉に、
数名の店の中にいた客が言葉の意味を理解して、こけそうになっていたりするものの。
そんなアメリアの言葉に。
ちらり、とアメリアのほうに視線をむけ。
「あら。アメリア。あんたもきてたの?よくあの鉄砲水で無事だったわね。」
などといっているナーガ。
「鉄砲水?落盤じゃないですか?」
「何いってるのよ。あれは……」
アメリアの言葉に、言いかけるナーガの瞳に一瞬恐怖の色が宿る。
ミミズ=水。
とナーガの無意識の自我は記憶修正してるからねぇ。
「と、とにかく。そんなどうでもいいことより。」
「はっ!そうですね!今はそれより、この悪の根源!
  暗黒騎士アビスフレイムさんを真人間にするのが目的です!」
何やら二人して、そうそうにそのことには触れることもなく。
アメリアもナーガの横にふわり、と浮き上がり、ナーガの横にと並び。
びしっ!
と台の上から、カウンターの内部に未だにいる彼にと指を突きつける。
そして。
どうやら何か関わりにならないほうがいいような?
などとおもうもの。
そしてまた、今回の演出はこってるなぁ。
と思うもの様々ではあるが、とりあえず客たちは店の隅にと避難する。
そんな二人の声に、はたり、と我にと戻り。
「おのれ!さてはスカルマッシャーの妨害工作か!?」
などと、とりあえず、おそらくは、まさか教えてないはずもなかろう。
と自分に言い聞かせつつ。
ナーガとアメリアにと言い放つ。
事実、ナーガたちって知らないのよね♡
そして。
「女子供に媚を売る店の正体がこれか!ならばこちらも受けてたつまで!
  パンモニウムに集いしものたちよ!今こそその手に武器をとれ!そして我らが敵を打ち砕くのだ!」
『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおお!』
まってました!
とばかりに、客たちがそれぞれに武器を手にとる・・・が。
「有無を言わさずに攻撃をしかけるなど!しかも、それを罪もない客たちに!やはり許せません!!」
一人、何やらわめくアメリアに。
「ゆけぇ!」
号令一下、その声とともに、客たちはアメリアとナーガにむけて、
それぞれ思い思いの武器を手にかかってゆくが。
それと共に。
ミノタウルスが振りかぶっていた斧をアメアリたちにむけたその刹那。
氷の矢フリーズアロー!」
氷の槍アイシクルランス!!」
ナーガとアメリアが放った冷気の矢と槍が、武器を手にしている客たちにと降り注ぐ。
かっきぃん!
それをうけ、二人に向かっていた客たちがものの見事に一瞬のうちにと凍りつく。
「馬鹿な!?攻撃呪文だと!?」
それをみて、驚愕の声を上げている『アビスフレイム』。
客たちの中には、今回の演出はこってるなぁ。
などと思いつつも、だがしかし、あくまでもイベントはイベント。
そんなことを思いつつ。
さらに、アメリアとナーガに向かっていこうとするものもいたりするけど。
だ・か・らぁ。
この二人、事情をしらないんだってば♡
「何の罪もないお客さんたちを仕掛けるとは!それすなわち!悪以外の何ものでもありません!
  さあ!暗黒騎士アビスフレイム!今ここに、その自らの罪を認めてざんげなさい!
  悔い改めない場合は、このアメリア、今ここにて、あなたに正義の裁きを下します!」
「お~ほっほっほっ!」
二人して、何やら言い放ち、また、高笑いをあげる二人を目にし。
「……ど、どういうことだ!?」
まさか……まさか、いや、そんなことは……
などと思いつつ、声に怒りを含ませ叫ぶ『アビスフレイム』の言葉に。
「ふっ。どういうことだ。ですって?笑わせてくれるじゃない。暗黒騎士アビスフレイム!」
「そうです!そもそも先に嫌がらせをしてきたのはそちらのほうです!
  悪を裁く、それすなわち正義!それとも、何ですか!?あなたにとっては。
  大モグラの手綱さばきを間違って他人の店に突っ込むのはよくて。
  あたしたちがあなたに正義の裁きを下すのは悪い、とでもいうんですか!?
  そんな理不尽なことは、たとえおてんと様が許しても、このアメリアが許せません!」
口々に言い放つ、二人の言葉に。
「そんな『正義の裁き』だか何だかしらんが、あってたまるかぁぁ!…というか、まさかお前たち……」
ようやく、真実。
二人が事情を知らないことに気づいて、何やら声を上げようとする『アビスフレイム』。

彼らがそんなやり取りをしているそんな中。
「あらあら♡どうやらやってるみたいねぇ♡」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」
それをみて、思わず頭を抱えているガント。
パンデモニウムの前につき、そして、あたしたちが目にしたものは。
攻撃呪文で吹き飛ばされた扉と。
そして、何から聞こえてくる何やら本気の悲鳴の数々。
「と、とにくか二人をとめないと!」
などといいつつ、あわてて、ガントが店の中にと駆け入り。
そして……

「――お…ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
その光景をみて絶叫を上げているガント。
その声に思わず振り向いているアメリアとナーガ。
そして、その後ろにあたしとガウリイ、ゼルの姿をみとめ。
「リナさんたちもきてくれたんですね!さあ!一緒に正義の鉄槌を下しましょう!」
などと、一人張り切っているアメリア。
「お~ほっほっほっ。気にしなくてももうすぐカタはつくわよ!店長!お~ほっほっほっ!」
そんなアメリアに続き、何やらまったくいまだに誤解したまま高笑いをあげているナーガ。
と。
「がんとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
そんな中、入ってきたガントに気づき、『アビスフレイム』の怒声が響く。
そして、そのまま、ガントのほうにと向かっていき。
声を張り上げ。
「まさかとはおもったが!きさま、この臨時雇いたちに教えてなかったのか!?
  あの『いやがらせ』が販売促進キャンペーンのイベントなのだと!」
そんな『アビスフレイム』の言葉に。
「すいません…オーナー……」
恐縮して声を出しているガント。
そんな二人の会話に。
しばし、一瞬かたまりつつ。
「……イベント?」
「…オーナー?」
二人同時に顔を見合わせているアメリアとナーガ。
そして。
後ろから入ってきたあたしたちにと視線をうつし。
「?……あ、あの?リナさん?いったい……」
とまどいの声を上げているアメリア。
そんなアメリアに。
ため息をつきつつ。
「店長から聞いて、あわてて追いかけはしたんだがな。何か落盤にあって追いつけなかったからな……」
などと、ため息をつきつつも、何やらいっているゼルに。
「あら?アメリアもナーガも気づいてなかったの?
  店に来てた客たちも、そういうようなこといってたでしょうに♡」
にこやかな、あたしの言葉に。
「でも、よく店無事だったなぁ。
  このアメリアの姉ちゃんが絡んだら、いつも店ごと破壊される。
  なんていうことはしょっちゅうあるのに。」
のほほん、とそんなことを言っているガウリイ。
「あら?もう少し遅れてたら、ナーガのことだから店ごと吹き飛ばしてたわよ♡
 ま、とりあえず。つまりはね。アメリア。ナーガ。
  今回のこの『いやがらせ』はね。
  彼らの期間限定バーゲンの販売促進のお知らせになってたのよ。まさか気づかなかったの?」
くすっ。
そんなあたしの言葉に。
なぜか。
『ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!?』
店の中、アメリアとナーガの驚きの声がこだましてゆく。


「まあ、見てのとおり。このパンデモニウムはこういう雰囲気の武器・防具店だ。」
パンデモニウムの店舗下。
さきほど、『アビスフレイム』が従業員の人生相談を受けていたその部屋において。
あたしたちを前にして、彼は語り始めてゆく。
とりあえず、アメリア達が凍らせた客たちは、ひとまず解凍しておいて。
店は従業員たちにと任せて、あたしたち…
というか、特にナーガとアメリアに説明するためにと降りてきているこの店の店長。
あたしやガウリイ、ゼルはといえば、ここに来る前にガントから説明をうけて大まかなことは知ってるけど。
ま、あたしはもともとわかってたしね♡
当たり前ながら♡
「戦乱を好む混沌の軍団。といったノリのデザインコンセプトで。
  従業員やわしの制服もそのイメージで統一しておる。」
淡々と語る、そんな彼の言葉に。
「……それって、制服のつもりだったのか?その鎧は……?」
思わずつっこんでいるゼルの姿。
「実のところ、ここだけの話しだが、暗黒騎士アビスフレイム、というのもわしの本名ではない。」
そう語る彼の言葉に。
「本名はドゥクゥルっていうのよ♡彼は♡」
あたしの言葉に首をかしげ。
「?わしは名乗ってないが?と、ともあれ。ドゥクゥル。というのがわしの本名なんじゃが。
  まあ、雰囲気を大切に、というので偽名を使っているわけじゃな。」
そんなドゥクゥルの言葉に。
「……別に偽名つかわなんてつかわなくても……」
何やらづふやいているアメリア。
「ともあれ。その狙いが当たって店は繁盛。
  いくつも支店を出したのだが……どうも女性層に受けがよくない。」
そういうドゥクゥルの言葉に。
「そう?悪くないとおもうけど?このデザインとかも。」
言いながら、出されている飲み物に手をつけているナーガ。
「……この人にセンスを認められる、というのでその時点で何だとおもうが……」
ぽそり、と何やらゼルが言っていたりするけど、その言葉はナーガの耳には届いてはいない。
そんなナーガの言葉に。
「ありがとう。しかし、このセンスをわかってくれん女性が多いことも事実だ。
  そこで、別の名前、別のコンセプトの女性向けチェーン店を出そう、と思い立ち。
  わしの片腕でもあった、このガントを店長に据えた。
  それの一号店がお前たちの勤めている『スカルマッシャー』というわけだ。」
淡々、と語る、そんな彼の言葉に。
「事情はわかりましたけど……。
  『スカルマッシャー』って名前はあまり女性向けではないようなきがするんですけど?」
少し疑問に思いつつ、問いかけているアメリアのその言葉に。
「何をいっている。青春のほろにがさ、というか。
  そういうのを含んだいかにも女性受けしそうな名前ではないか。
  わしのような歳になると名前を口にするのも少々こそばゆいものがあるが。
  まあ、人間の感覚でどう感じるのかまではしらんが。」
ま、ドワーフ達、というか、特に彼の産まれた場所独特の方言だったからねぇ。
ちなみに。スカルマ、というのが、彼にとっての、初恋、だの、恋愛、だの、という言葉を指していたりする。
…ま、それ、方言なんだけどね……
方言って、結構使っている本人、知らないことが多いからね♡
それはそれとして。
「……ずいぶんと人間と感覚が何だな……」
あきれつつ、つぶやくゼルに。
「そうか?お。ゼル。この饅頭うまいぞ?」
横で、もくもくと出されている饅頭を食べているガウリイ。
「…ガウリイさん。食べてばかりでないで、話し…きいてます?」
「いや、聞いても別にわからんし。」
「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」
ガウリイに突っ込みをいれるアメリアではあるが、
即座に返事を返しているガウリイに、なぜかその場にいる全員が一瞬無言になりつつも。
こほんと咳払いを一つして。
「と…ともかく。だ。それで新チェーン店の広告をかねたイベントとして思いついたのが。
  『互いの店が対立している。』という設定だ。
  お互いに『嫌がらせ』をして売り上げ勝負を挑む。
  つまり、これが期間限定バーゲンのお知らせになっているわけだ。
  その期間中。互いの店は『次の嫌がらせ。』として客がいるときにランダムで大ミミズを送り込む。
  居合わせた客たちに実際に武器などを使ってもらうお試しイベント、というわけだ。」
そう説明してくるドゥクゥルの言葉に。
「つまり、全部客寄せのやらせってことですか!?」
思わず声を上げているアメリア。
そんなアメリアの声に、こくん。とうなづき。
「ヤラセ、というよりはイベントショーじゃな。このあたりのことは客たちも承知してくれておるからな。
  それを楽しみにやってくる客もすくなくはない。」
そんな彼の言葉に。
「…でも?確かまけたら兜を脱ぐとか、店を真っ黒に塗りつぶす…とか……」
珍しく、まともなことをつぶやいているナーガ。
そんなナーガのつぶやきに。
「兜を脱ぐときには下に覆面をしておればいいし。
  店は何日かしたらまたもとの色に塗りなおせばいい。それだけの話しだ。
  で、勝った側がそれに文句をつけて、また対立続行…という筋がきだ。」
そう淡々と説明してくるドゥクゥルの言葉に。
「でも!それならそうとはじめから説明してくれれば!」
などと叫んでいるアメリア。
「あら?アメリアvあたしは知ってたわよ♡」
「リナさんなら知っててもおかしくないです。リナさんだから、で納得しますから。」
「…ま、リナならば、アレとかかわりがある可能性がありかねないからな。
  知ってて当たり前だろうが。それに、お前は人の心とかさらっと読んだりするだろうが………」
ため息まじりにそんなことを言ってくるゼル。
「あら♡だ・か・らぁ♡誰でも考えてることなんて『視れる』ってば♡」
『無理(です)(だとおもうぞ)(にきまってるじゃない)(だ)。』
なぜか、きっちしきっぱりと、声を重ねるアメリア・ゼル・ナーガ・ガウリイの四人の姿。
そんなあたしたちの会話をききつつ。
「……いやあの……誰でも『視れる』……とかいうのがかなり気にはなるが……
  ……ともあれ、事前に話しておいた場合。
  芝居っけのない従業員だと、しらじらしい演技で雰囲気を台無しにしてしまいませんからな…
  そう思って、彼女たちには話しておらんかったのですが……
  まさか、彼女たちが攻撃呪文の使い手で、大ミミズを瞬殺したあげくに、
  話しをする暇もなく、ここに乗り込んでくるなどとは……」
困ったように、ドゥクゥルにと、ナーガとアメリアに視線を走らせ、何やら言っているガント。
「まあ、確かに普通はおもわんわな。」
そんなガントの言葉に苦笑しているドゥクゥル。
「じゃあ、何ですか!?全部誤解ってことですか!?」
何やら叫び声をあげているアメリアに。
「ま、そういうことね。アメリア。客たちがイベントが始まったら、歓喜の悲鳴上げてたでしょうが♡」
「そんなのわかりません!」
あたしの言葉に、即座に突っ込みをいれてくるアメリアに。
「……まあ、俺もアメリア達が穴に飛び込んだ後。ガント店長から聞かされた口だからな。
  ……いわれてみれば、客たちは怯えることもなく、嬉々として戦闘をしようとしていた。
  というのは、言われて初めて気づいたがな。」
いって苦笑しているゼル。
「そうか?オレは何かおもいっきりわざとやってるな。というのわかってたぞ?」
「ガウリイさん!気づいてたんなら早くいってください!」
「……ま、ガウリイだからな。その野生の勘で見抜いていたんだろ。」
そんなガウリイに抗議の声を上げているアメリアに、それで納得しているゼル。
「あたしは初めから知ってたし♡」
「ま、リナだしなぁ。」
あたしの言葉に、しみじみと何やら言っているガウリイ。
「と…ともかく。そもそもは、こちらの連絡不行き届きが原因。
  それに本店に来たおぬしたちを――」
いって、ナーガとアメリアに目をやりつつ。
「イベント用のやられ役、にしてはおかしいな?とは思いつつ。
  早合点して客たちに攻撃を命じたのはわしだからな。
  侘びとしてバイト料は多めにださせてもらおう。」
そんなドゥクゥルの言葉に。
「ま、まあ、そういうことなら。悪くないわね。お~ほっほっほっ!」
バイト料を多めにだす。。
という言葉であっさりと丸め込まれているナーガ。
「先にいっといてほしかったです……。
  ああ!私は悪を懲らしめる正義の使者をやりたかったのにぃ~!!」
一人、何やら叫んでいるアメリア。
「ま、人の話はきちんとききなさいvという典型的な例ねv」
そんなあたしの言葉に。
「というか、リナが先に言っとけば、こんなことにはならなかったとおもうぞ?」
何やらぽつり、と言っているガウリイ。
どごっ!
きゅぅ……
「あら♡なぜか天井の一部が剥げ落ちたみたいね♡」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
なぜか、偶然にも剥げ落ちた天井の一部の岩にと押しつぶされ、地面にとのめりこんでいるガウリイの姿。
それをみて、なぜかこの場にいる全員が無言なっていたりするけど、それはそれ。

結局のところ。
とりあえず、アメリア達が誤解をしていた、というのを納得し。
そして……
そのまま、あたしたちは、ついでだから。
というので、十日ばかり、スカルマッシャーでのバイトを継続することに。

理由は簡単。
結構面白い。
というのと、アメリアもこういう経験は滅多とできない。
ということと、そこそこバイト料もあり、路銀に困らない、というのがあったりするけど。
ま、なくなったらゼロスにオリハルコンでも掘りにいかせばいいだけのことではあるけどね。


「でましたね!万魔殿バンデモニウムの工作物体!
  今こそ、我ら正義のスカルマッシャーの力のうちを見せ付けてあげます!」
『きぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
いいぞ~!
ひゅ~ひゅ~!
大ミミズが再び来店したその刹那。
だっん!
と商品陳列ケースの棚の一つに飛び上がり。
何やら言い放つアメリアの言葉に、店にきていた客たちは思いっきり盛り上がり。
アメリアに声援を投げかけていたりする。
なぜか、ちょっぴり大ミミズが近くに来たときなどは、
瞬時に顔色もわるくミミズたちを撃破していたりするけど。
ナーガはナーガで。
「お~ほっほっほっほっ!」
何やら顔色もわるく、ずざっと退きながらも、高笑いをしつづけてたり。
ゼルなどは、店にともどり、再びバイトを再開し。
大ミミズの来店時、思いっきり固まっていたりしたけど。
どうも、ミミズをみて、記憶が訂正されていた箇所の部分が、まともに正常によみがえったらしく。
ちょっぴり吐いてたりもしたけど、それはそれ。
しばらくは、アメリアやゼル、そしてナーガのミミズに対するトラウマは続きそうね♡



「……世界って広いんですね……」
何はともあれ、十日のバイトをおえ。
店を後にし、道を歩いているときに、アメリアが何やらぼつり、といってくる。
「お~ほっほっほっ!アメリア、いい勉強になったわね!って……んきゃぁぁぁぁ!」
がらがらがら……
「ああ!姉さん!!」
そのまま、高笑いをするために、胸をそらした弾みに。
崖の上から下の川にと向かっておっこちてゆくナーガに。
そんなナーガに叫び声をあげているアメリア。
まったく、場所を考えて行動しないからねぇ。
ナーガは♡
ドワーフの店でのバイトも終わり。
とりあえず、セイルーンに向けて、ナーガも一緒に進んでいくその最中。
店を出て、一時もしないうちに、ナーガは崖の道より足を踏み外し。
そのまま、崖の下の川にと落ちて流れてゆく。
「ま、ナーガだし。別に怪我もないわよ。」
そんなあたしの言葉に。
「それもそうですね。とりあえず、また姉さんを探しにいかないといけませんね……」
あっさりと納得して、一人しみじみいっているアメリア。
「……というか、それでいいのか?」
などと、思わず突っ込みを入れてきているゼルに。
「ま…まあ、あの人ですからねぇ……」
などと、どこか遠い目をしつつ、言っているゼロス。
結局のところ。
ゼロスが結構店番などが上手にできた、というのもあり。
ガントはゼロスに本格的に、店で働かないか?とかスカウトしていたりしたけど。
そんなガントの申し出をやんわりと断り。
あたしたちと共に行動しているこのゼロス。
「ま、いいんじゃないか?とにかく、とっとといこうぜ。」
それですまし、先を促すガウリイ。
「そうそう♡いきましょ♡」
とりあえず。
あたしたちが向かうは。
セイルーン。
その前に、ナーガをまた見つけないとねvv

                                ―地底王国の脅威編終了―

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あとがきもどき:
薫:時間設定としては。レイナード王国の事件(RPG・ロイヤル2)が終わった後です。
  なので、登場人物は、いつもの四人組プラス。ゼロスです。
  ちなみに、店長さんの名前。でてこなかったので、薫の創作です(笑)
  ガント・ドゥクゥル・ブドゥド。という並びにしてみましたのですv
  今回のこれは。エル様が何か大人しめ・・・
  ナーガがアメリアと一緒になって、問答無用に店をぶちこわす。
  というのも考えたのは考えたのですが。
  一応、他の客もいる、ということで(笑
  ナーガがやろうとしても、アメリアがとめるかな・・・と。
  ・・・エキサイトしてたらアメリアもいっしょくたになってやるのは間違いないですがね(苦笑
  何はともあれ。
  地底王国の脅威編。でした。
  では、またいつか・・・・
  2005年2月20日某日



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